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●最後の花道 

作者: かや博史

ふと見上げると、妻がいるではないか!しかも息子も連れてきている。

バカな、来るなと言ったのに!!



●最後の花道



野球が好きで野球選手になった人がいる。


でも入ってすぐに怪我をして2軍の試合にも出られない。


今期で戦力外が決まっている。


今日が最後の試合だった。



家を出る時、妻がボソッと言った。


「試合、見に行こうか?」


「いや、いいよ」


ベンチにずっといるかっこ悪い自分を見て欲しくないと思った。





そんな朝の事を思いだしている自分にもなさけない。


ベンチにいても試合に集中しなければ!


相手チームのショートには、同時期に入った川上がいた。


俺と違って正ポジションを取ったんだなぁ。

彼には頑張って欲しい。



試合はすでに後半なのに負けている。


しかし

2死1・2塁、

ヒットが出れば同点にできる。


こちらは3番4番だ。チャンスはある。


試合が始まってから始めてのチャンスらしいチャンスだ!

しかもうちのチームの3番4番は絶好調だ!



普段は見ないのだが、今日は何故か観客席が気になった。


ふと見上げると、

妻がいるではないか!

しかも息子も連れてきている。


バカな、来るなと言ったのに!!



ベンチを暖めている自分が急に恥ずかしくなった。


さっきまで声が枯れるほどの大声で仲間を応援したいた声も小さくなった。


せめて妻から見えない位置に移動して声を出そう。


そう思って、座り位置を直そう立った時、


監督が、

「どこに行く?」

「次、お前が行け、頼んだぞ!」


「自分ですか?4番の・・・・」


戸惑っている私に構わず、監督は「4番に代えて、・・・・」と指示を出している。


そうしてる間に、3番打者は粘りに粘って、4ファーボールを選んだ。

普段4球などあまり選ばないうちの3番がこんなに粘って、チームの為に!



2死満塁。



このチャンスに

4番に代わって、打席に立ったのは私だった。




足が震える。


こんな事じゃいかん!


チームの為になんとかオレもつなげなきゃ。



「タイム!」



リラックスしなきゃ、ダメだ!


屈伸をしながらチラッと後ろを見る。


妻と息子の視線が、監督の視線よりも痛かった。





妻の前で、せめて三振だけはしたくない!





1球目、ストレート。

空振り。







全然球速に合っていない!


力み過ぎて大振りになったんだ。


もっとバットを短く持って当てにいこう。







2球目、ストレート。

空振り。







シュートに感じたが、ストレートだった。


2ストライク。



もう後が無い!




フォークでも投げられたら、



相手はエース級の投手だ、かなう相手ではない。


球種を絞ろう。


でも、



今のオレには、ストレートしか打てない。


2球軌道を見ているし。

ストレートならなんとかなるかもしれない。


でも、変化球なら・・・三振か・・

相手はエースだ。



ダメかな。




そう思った時、息子の声が聞こえたように思えた。


「パパ、頑張って」



こんなに沢山の観客がいるのに、息子の声が聞こえるなんて。





打たなきゃ。




気合を入れてピッチャーを見る。





信じてもらえないかもしれないが、


相手のエース級の投手は、

優しい目で、オレを見つめていた。






それは、


まるで、


オレに話しかけている様に







「もう1球、  ストレートいくよ」


と言っているようだった。




涙が出てきた。






3球目。ストレート


当たった。





でも

ボテボテの1.2塁間ショートゴロ、




川上が軽くさばいて終わりだと思いながらも全力疾走で1塁に向かって走った。



名手・川上、グラブに当てるもぎりぎり間に合わず、

球はライト前へ転がった。





2点入って逆転。


でもそれからは涙でよく覚えていない。





妻と息子が何故か花束を持ってグラウンドにいて、私に渡してくれた。




「ご苦労様、あなた」




「監督が呼んでくれたの」


監督が妻に話している


「うちのエース代打者がいなくなるのは、非常に残念で・・・・」


涙であとはよく聞こえなかった。







そんなオレに後ろから川上が近づいてきて肩をたたいた。



「ナイスヒット!」





「川上、おまえ!本当は・・・・・」と言いかけると



川上は息子に近づき、ウイニングボールを渡してくれた。


「お父さんが勝たせた試合のボールだよ」












「ありがとう、みんな。」


END


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