お星様にお願い
ヴィヴィアン、学校帰り。商店街にて。
「あら、お帰りなさい」
「あ、和菓子屋のおばさん。ただいま~」
「そうだわ。金平糖要らない? 可愛いお菓子よ、キャンディみたいな」
「こんぺいとー?」
初めて聞く名前だった。でもキャンディは好きだから、ちょっと興味がある。
おばさんは一度、店に入り。
すぐに出て来た。
透明な簡易ケースの中に、淡い色彩のお星様がいっぱい入っている。
小さくてカラフルで、形も可愛い。
「わぁ~、すごい。可愛い……!」
「でしょう? お願い事をしながら食べると、星が叶えてくれるのよぉ」
「ほんとにっ?」
「ええ、本当よ」
「すごいねぇ……和菓子屋さんって、魔法使いだよね! お水みたいな羊羹とか、お花のお菓子とか、すっごく綺麗だし、わたし大好き!」
「あら、嬉しい。ね、ひとつ食べてみて」
言われるままヴィヴィアンは、淡いピンクの星を摘み、口に入れた。
爽やかな香りと甘さが、口の中で解放される。それはとても、品のある刺激であった。
心が軽くなり、勝手に顔がほころぶ。
――な、なにをお願いしよっかな……。
今暮らしている自宅の事、空の事、学校の事。
叶えたい事はたくさんある。とにかく楽しく暮らしたいのだ。不安なんかもう、欲しくない。
「願い事、決まった?」
そう聞かれたので「はい」と言って目を閉じ、胸の前で手をふわりと合わせる。
ヴィヴィアンの、今の一番の願い。それは――。
「これからもずっと、オーフェリアさんと、幸せな日々を過ごせますように」
小さな声で呟くと、「はぁっ?」と言う不機嫌な声が聞こえた。
驚いて目を開ける。
すると目の前のおばさんの顔が、豹変していた。
――え。な、なによ……。
「一番最初に、それ願うぅ~? テストで百点とか、かけっこで一等とか、そう言うのにしときなさいよね~」
「わたしが何を願おうと、こっちの勝手じゃん!」
「一緒に暮らしてるだけでもう充分幸せでしょ! もっと他の事を願いなさいよっ。ほらっ、ほらっ!」
「ヤだ! 指図されたくないし!」
「あたしだってオーフェリアさんと幸せになりたいっての! あんた、ちょっとばかり若くて可愛いからって、調子に乗ってー!」
キーキーと奇声を発しながら、いつの間にか殴り合いをしていたふたりは、店のご主人とバイトのお姉さんに、それぞれ羽交い締めにされていた。
「店の前でアホかお前は! こんな小さな子と本気になってケンカするなんて! おい、田中さん、すまないがその子、送って行ってくれ」
ヴィヴィアンの背後から、お姉さんの「はいっ」と言う声がした。
「ちょ……ババァ逃げんなコラ!」
「あんたこそー!」
叫び合うふたりはちょっとずつ距離を離され、相手の声が少しずつ少しずつ、遠く小さくなってゆく。
バイトの田中さんがヴィヴィアンをドールショップまで運び終えたのは、約十分後の事。
五軒程しか離れていないのに、田中さんは汗をかき、息切れしていた。
「どうしたの、ヴィヴィアン!」
驚いたオーフェリアが、レジカウンターから飛び出して来る。
その事にハッとしたヴィヴィアンは、慌てて体勢を整え直し「な、なんでもないよ」と手を振った。
「で、でも」と呟き、田中さんを見つめるオーフェリア。
田中さんはその美しい瞳に魅了されたかのように、慌ててうつむいた。顔が真っ赤だ。
「あの、うちの奥様が、金平糖を」
「こんぺい……あぁ、あの綺麗な」
「お嬢様に、と」
「また頂いたのですか? 後でお礼を言いに行かなければ」
真面目である。
「あのね、オーフェリアさん」
ヴィヴィアンの呟き声に、オーフェリアはスッとしゃがんで「ん?」と視線を合わせた。
「お星様が、お願い事を叶えてくれるんだって」
「それを頂いたのね」
「うん、そう」
それでなぜこんなにもふたりが疲れているのか、オーフェリアには全く理解出来なかったが。
「よかったね、ヴィヴィアン。これからもたくさん、お願い、叶えようね」
オーフェリアがそう言うと、ヴィヴィアンは頬を染めて「うん」と言った。
ケースの中にはまだまだ、お星様がたくさん入っている。
一方、和菓子屋店内では。
「お前さー、ほんっと、子供とケンカするとか止めろよなー」
「だってー。あの子ムカつくしー」
「小学生相手に、バカ言うな」
「それに、面白いんだもん。他の子と違って、打てば響くって言うかさー」
「子供をからかうとか、タチ悪いぞ。もしあの子がグレたらどうするんだ。責任持てないだろ」
「……まだグレてないのかしら」
「はぁ?」
「だってね、時々ね、ビーバップな口調と言うか、気配が」
世代である。
「何言ってんだ、全く……」
ため息を吐きながら、主人は工場へと戻り始めた。
「それよりも、ほら。お前が言ってた子供向けの菓子、ちょっと考えてみたぞ」
「えっ、もう?」
「ったく、ターゲット変えてくれて助かったぜ。オーフェリアさんもいい加減、俺の菓子には飽き飽きだったろうよ。レシピも行き詰まってたしなー」
これまでオーフェリアに試食させるためだけに、何作品発案させられたか分からない。作る方だってウンザリし始めていたのだ。
「ふふっ」
「な、なんだよニヤニヤして」
「ありがとうね。あなたの協力で、いつも結構楽しいわ」
「ふーん。そりゃよかったな」
「ええ。感謝してるわ。だからこれからも、いっぱいお菓子作ってね」
主人は鼻で笑い、そのまま工場へ引っ込んだ。
妻は彼のためにお茶を淹れ、戻って来たバイトは接客をする。
とある商店街の、一角で。




