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やどりぎ  作者: あおい
Sub episode
30/31

お星様にお願い

 ヴィヴィアン、学校帰り。商店街にて。


「あら、お帰りなさい」


「あ、和菓子屋のおばさん。ただいま~」


「そうだわ。金平糖要らない? 可愛いお菓子よ、キャンディみたいな」


「こんぺいとー?」


 初めて聞く名前だった。でもキャンディは好きだから、ちょっと興味がある。


 おばさんは一度、店に入り。

 すぐに出て来た。


 透明な簡易ケースの中に、淡い色彩のお星様がいっぱい入っている。

 小さくてカラフルで、形も可愛い。


「わぁ~、すごい。可愛い……!」


「でしょう? お願い事をしながら食べると、星が叶えてくれるのよぉ」


「ほんとにっ?」


「ええ、本当よ」


「すごいねぇ……和菓子屋さんって、魔法使いだよね! お水みたいな羊羹とか、お花のお菓子とか、すっごく綺麗だし、わたし大好き!」


「あら、嬉しい。ね、ひとつ食べてみて」


 言われるままヴィヴィアンは、淡いピンクの星を摘み、口に入れた。


 爽やかな香りと甘さが、口の中で解放される。それはとても、品のある刺激であった。

 心が軽くなり、勝手に顔がほころぶ。


 ――な、なにをお願いしよっかな……。


 今暮らしている自宅の事、空の事、学校の事。

 叶えたい事はたくさんある。とにかく楽しく暮らしたいのだ。不安なんかもう、欲しくない。


「願い事、決まった?」


 そう聞かれたので「はい」と言って目を閉じ、胸の前で手をふわりと合わせる。

 ヴィヴィアンの、今の一番の願い。それは――。


「これからもずっと、オーフェリアさんと、幸せな日々を過ごせますように」


 小さな声で呟くと、「はぁっ?」と言う不機嫌な声が聞こえた。

 驚いて目を開ける。


 すると目の前のおばさんの顔が、豹変していた。


 ――え。な、なによ……。


「一番最初に、それ願うぅ~? テストで百点とか、かけっこで一等とか、そう言うのにしときなさいよね~」


「わたしが何を願おうと、こっちの勝手じゃん!」


「一緒に暮らしてるだけでもう充分幸せでしょ! もっと他の事を願いなさいよっ。ほらっ、ほらっ!」


「ヤだ! 指図されたくないし!」


「あたしだってオーフェリアさんと幸せになりたいっての! あんた、ちょっとばかり若くて可愛いからって、調子に乗ってー!」


 キーキーと奇声を発しながら、いつの間にか殴り合いをしていたふたりは、店のご主人とバイトのお姉さんに、それぞれ羽交い締めにされていた。


「店の前でアホかお前は! こんな小さな子と本気になってケンカするなんて! おい、田中さん、すまないがその子、送って行ってくれ」


 ヴィヴィアンの背後から、お姉さんの「はいっ」と言う声がした。


「ちょ……ババァ逃げんなコラ!」


「あんたこそー!」


 叫び合うふたりはちょっとずつ距離を離され、相手の声が少しずつ少しずつ、遠く小さくなってゆく。




 バイトの田中さんがヴィヴィアンをドールショップまで運び終えたのは、約十分後の事。

 五軒程しか離れていないのに、田中さんは汗をかき、息切れしていた。


「どうしたの、ヴィヴィアン!」


 驚いたオーフェリアが、レジカウンターから飛び出して来る。

 その事にハッとしたヴィヴィアンは、慌てて体勢を整え直し「な、なんでもないよ」と手を振った。


「で、でも」と呟き、田中さんを見つめるオーフェリア。

 田中さんはその美しい瞳に魅了されたかのように、慌ててうつむいた。顔が真っ赤だ。


「あの、うちの奥様が、金平糖を」


「こんぺい……あぁ、あの綺麗な」


「お嬢様に、と」


「また頂いたのですか? 後でお礼を言いに行かなければ」


 真面目である。


「あのね、オーフェリアさん」


 ヴィヴィアンの呟き声に、オーフェリアはスッとしゃがんで「ん?」と視線を合わせた。


「お星様が、お願い事を叶えてくれるんだって」


「それを頂いたのね」


「うん、そう」


 それでなぜこんなにもふたりが疲れているのか、オーフェリアには全く理解出来なかったが。


「よかったね、ヴィヴィアン。これからもたくさん、お願い、叶えようね」


 オーフェリアがそう言うと、ヴィヴィアンは頬を染めて「うん」と言った。


 ケースの中にはまだまだ、お星様がたくさん入っている。




 一方、和菓子屋店内では。


「お前さー、ほんっと、子供とケンカするとか止めろよなー」


「だってー。あの子ムカつくしー」


「小学生相手に、バカ言うな」


「それに、面白いんだもん。他の子と違って、打てば響くって言うかさー」


「子供をからかうとか、タチ悪いぞ。もしあの子がグレたらどうするんだ。責任持てないだろ」


「……まだグレてないのかしら」


「はぁ?」


「だってね、時々ね、ビーバップな口調と言うか、気配が」


 世代である。


「何言ってんだ、全く……」


 ため息を吐きながら、主人は工場こうばへと戻り始めた。


「それよりも、ほら。お前が言ってた子供向けの菓子、ちょっと考えてみたぞ」


「えっ、もう?」


「ったく、ターゲット変えてくれて助かったぜ。オーフェリアさんもいい加減、俺の菓子には飽き飽きだったろうよ。レシピも行き詰まってたしなー」


 これまでオーフェリアに試食させるためだけに、何作品発案させられたか分からない。作る方だってウンザリし始めていたのだ。


「ふふっ」


「な、なんだよニヤニヤして」


「ありがとうね。あなたの協力で、いつも結構楽しいわ」


「ふーん。そりゃよかったな」


「ええ。感謝してるわ。だからこれからも、いっぱいお菓子作ってね」


 主人は鼻で笑い、そのまま工場へ引っ込んだ。

 妻は彼のためにお茶を淹れ、戻って来たバイトは接客をする。


 とある商店街の、一角で。

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