瞳
ヴィヴィアンは作業の手を止め、オーフェリアの用意してくれていたビスケットとミルクで休憩を取ることにした。
彼女は今、悠真の身体のスペアを作っているのだ。
単純な形だが、シンプルであるがゆえに難しい作業である。
それを横で、ドキドキしながら見守る悠真。
――うーん……歪んでいる。頭部も手足も、バランスが悪い。もしこれを使用するとなったら、歩くのさえ苦労しそうだなぁ。でもそんなコト、言い難いなぁ。せっかく作ってくれてるんだし。でもなー、僕の実害を考えると甘い顔は見せられないって言うか。見せてる場合じゃないって言うか。
作り始めたばかりなので、まだヘタクソなのは仕方がないだろう。これから技術的に上達してくれればいいのだ。
「悠真の今の顔って、点と線だけだよねぇ。可愛いけどぉ」
「な、なに?」
彼女はマジックのキャップをキュッ、と外した。
そしてペン先がおもむろに、こちらへと向けられる。
――で、デカい。
これまで意識したことなどなかったが、こうやって見るとマジックペンは、なかなかの迫力であった。
それが自分の顔面に向かって来る。
「あわ……わわ。なにするの、ビビアン?」
「可愛くしてあげる!」
「可愛いって……あッいや……ぎゃ――!」
「なにがあったの!」とオーフェリアがリビングに飛び込んで来てくれたけれど、時すでに遅く。
悠真の顔面の瞳は、幼女特有の〈お姫様用の大きな瞳を描いたはずなのになんだか妙な出来になってしまった〉バージョンになってしまっていた。
「オーフェリアさんぅ~」
「ゆ……悠真………うっ」
彼女はクルリとこちらに背中を向け、小刻みに震え始めた。笑われているのだ。
「もー。悠真が動くからだよぉ。次はもっとちゃんと、可愛く綺麗に描いてあげるからね」
「描いてくれなくていいよっ」
悠真は振り向きざま抗議したのだが。
――あらっ?
なんと言うことでしょう。
なんだか視界が広がっているではありませんか。
瞳の面積が広がった分、景色を広く把握出来ているようだった。
――すごい……マジか。
視界が開けると言うのは、結構心理的に爽快なもので。
――これはこれで悪くない、かな?
だが、窓ガラスに映った自分と視線が合った瞬間。
――無いな……。
と思い、視線を反らした。落書き感が凄過ぎて。
「ま、まぁヴィヴィアン。悠真の顔はとりあえず置いといて。絵が描きたいなら遥斗にでも習うといい。彼はあれでも基礎はシッカリ勉強してるから」
――あ、ありがとう! オーフェリアさんっ!
「んー。それはいいや。絵が上手くなりたいわけじゃないしー」
――なら、僕の顔に手を出さないでっ。
その時、悠真はオーフェリアに抱えあげられ、耳打ちされた。
「悠真の身体はしばらく、わたしがフォローしてあげるから」
なんて優しい事を言ってくれるのだろう。彼女の手の中で「うんうん」と頷く。
「だがまぁわたしもあまり絵心はないから……妙な出来になってしまった時には、許してほしい」
彼女は頬を染め、少し照れながら呟いた。
それを聞き、悠真は少し冷めた気持ちで思う。
あぁ。何だかんだ言ったって〈やどりぎ〉は、とてもありがたい物だったのだなぁ、と。




