珠玉
とある日の午後。遥斗宅リビング。
「うわーっ! 徐若瑄に――っ!」
影が何かを叫びながら、通り抜けて行った。
室内に風が巻き起こり、悠真の身体が舞い上がる。
そして、数秒後。
「白髪発生――っ! うわあぁぁぁぁーっ!」
またもや突風は部屋を横切り、去って行った。
「なっ、なんだなんだ? 今の、どっかで聞いたような声だったぞ?」
悠真がヒラヒラと床の上に着地するのと同時に、ヴィヴィアンは呟いた。
「クーちゃん……」と。
「でっ? きみは地球から戻りずーっと同じ事を叫び続けているが、それが何だと言うんだい? ショックだとでもっ?」
トバイアスは迷惑な表情を浮かべ、低い声で言った。
「いいや、別に」と真顔で返すクェンティン。
「なら、何なんだい!」
「一本欲しくね?」
「欲しくないっ!」
「うっそぉぉぉ! 徐若瑄の髪だぞ! 白い髪だぞ! 美しくていい匂いがするに決まってる! 地球の宝だ! 銀河の至宝! 宇宙の神秘! 欲しいに決まってるだろうがっ!」
「何度も言うが、欲しくないっ! と言うか、わざわざ僕の部屋に来て劣情を叫ぶな! 部屋の空気が穢れるっ!」
「この気持ちが分からないなんて! さては、お前――」
ギョッとしたトバイアスに、クェンティンが顔を近づける。
「ホモかオカ……」
「僕は至って普通の感覚を持った、ノーマルストレートだ! 出て行けーっ!」
トバイアスはクェンティンを蹴り上げ、部屋から追い出した。
そして息を吐き捨て、荒々しく扉を閉める。
クェンティンは、トバイアスの部屋の前の、廊下の壁に頭から突っ込んだが、痛みはあまり感じなかった。
徐若瑄の笑顔を思い浮かべると、自然と顔がニヤけてしまうのだ。痛みすら霧散し、消えてしまう。
ゆっくり態勢を立て直し、床に座り込んだままクェンティンは呟いた。
「あの良さが分からないなんて、これだから童貞は。ククク」
「どどど童貞でもないっ!」
背後から追加のツッコミを受け、クェンティンは気絶した。
彼の後頭部には、椅子の脚が突き刺さっている。




