07-4
「あいつ……ワケ分かんねぇな」
自分達の出来る攻撃は、一通り試してみた。
けれど、倒れるどころか怯むどころか、何の変化も見られない。
いや。逆にあいつは進化していた。
背中に垂れていた〈先輩だった身体〉はいつの間にか白骨と化し、チリのようになって消えた。
栄養として先輩の死体を啜り取ったのではないだろうか。
今はもう、全身が銀色の物体と化し、ひとりの男としてそこに居る。
いや。ひとりと決めてしまってはいけないかも知れない。
男の腹の左右には相変わらず他の人物が埋もれているし、それらも徐々に体積を増やしているようだった。
「最終的には三人を相手にする事になるのだろうか」
「アレひとりだけでも手応え無ェのに、冗談じゃねーよ」
それに対して、こちらは無傷と言うわけではなかった。
クェンティンは右足と左肩に穴が貫通しているし、トバイアスも右足を骨折していた。
ふたり共に髪を少々焦がしており、その臭いが漂っている。
「だがもし三人に分離すれば、各属性が独立するかも知れない。これまでの入り乱れた情報が整理されるはずだ」
そうなれば、通常の攻撃が通用するはず。
今よりはダメージを叩き込みやすくなる。
「さすがっスけど、トバイアスさん。俺にはそうは思えねーぞ? あいつ、入り乱れたまま分裂しちまうんじゃねーの」
「残念ながらその可能性の方が高そうだと、僕も思っている」
クェンティンは口元をムッと曲げてから。
「……降参しねぇから」と呟いた。
「ああ。僕もそんなつもりはない」
「へぇ? で、打開策は?」
「今は、皆無だ」
「期待させといてソレかよ。使えねーな」
「あのぉ。そこでおふたりにご相談なのですけれど」
ふたりの背後からミルドレッドが声をかけた。
「い、居たのかお前。完全に忘れてたわ」
「おふたりに忘れ去られている間、私なりに考えたのですけれど」
「ああ。なんだい?」
「クェンティンはまだ、太陽光は集められます?」
「おう。集めるだけならなー」
「ならば、私にお手伝いさせてください」
「あ? どうやって」
「光をあいつに打ち込んでください。体内に浸透させるのが無理なら、全身をコーティングしたり、それも無理そうなら、あいつに投げつけるだけでもいいです」
「ふーん。で」
「あれに太陽の光が接触さえすれば、私、本物の太陽へ〈繋ぎ〉ますから。もう、力技で行きましょう。太陽まで〈投げる〉のは距離があり過ぎて無理ですが、同調させて〈繋ぐ〉事は出来るので」
「太陽に送り込む、と言う事か……大胆だな」
いくら相手が頑丈でも、太陽に放り込めばさすがに命は無いだろう。
「女ってよー、大雑把なトコあるよなぁ。得てして男の方が繊細よな?」
クェンティンはトバイアスの肩に腕を回し、囁いた。
「い、いや僕に同意を求められても」
トバイアスは迷惑そうな表情で同意を拒み、顔を反らす。
「ほら~。結局お前もミルドレッドに飼い馴らされてんじゃん~。そう言うコトを自然にやっちゃうトコロが、女ってコワいのよ~ホホホ」
「嫌なら結構です。おふたりだけで、最後まで頑張ってください。私は見学させていただきます」
「ちょっと本当の事を指摘されたら、すぐコレだ。メンドクセ」
「あまり煽るんじゃない。クーちゃん」
「お前の方が煽り屋じゃねーか! クーちゃんじゃねーつってんだろ!」
「もうそろそろいいですか。いきますよ」
ミルドレッドがクェンティンの傍に付く。
トバイアスはふたりから少しだけ離れ、距離を置いた。
「仕方ねーな。じゃあ行くぞ」
「はい。どうぞ」
左右の掌を広げ、肘を少しだけ曲げ、集中して太陽の光を集める。
ぽわん、と生まれた小さな光は見る見る大きさを増し、直径五十センチほどになる。
「クッ、そろそろいいか?」
「そうですね。充分だと思います」
「なら、投げっぞ」
「はい。私が合わせます」
「よし……せぇ、の!」
クェンティンは全身の筋肉をバネのように使い、全身全霊で光を投げた。
相手はそれを察知し、自身の糧にしようとしたのか。
突如、空気を吸い込み始める。
「う……わっ?」
「きゃあっ!」
特に真正面に居たふたりは強烈に引っ張られ、身体が流れた。
このまま光と一緒にあいつに捕まってしまえば、クェンティンの集めた太陽の光と共に飲み込まれるし、太陽本体へも送り込めなくなる。
自分達さえ〈栄養〉にされてしまうのだ。
だがふたりの抵抗は虚しく、引きつけられてゆく。
ここが地球である事も、ふたりには不利であった。
いくら波動を書き換えようと、根本的な不安定さはどうしようもない。
「チッ!」と舌打ちをし、ミルドレッドだけでも背後に戻そうと、クェンティンが彼女の身体に両腕を伸ばした時。
ふたりの胴体が、長い帯状の物に縛り上げられた。
その瞬間、周囲の空気から切り離されたように、身体の流れが止まったのである。
身体に巻き付いている帯の先に視線をやると、トバイアスの腕から出ているのが確認出来た。
「きみ達の事は、僕が守る! ミルドレッド、そのまま続けるんだ!」
属性に呼応するシンボルと文字が刻まれた、トバイアスのリボン。
それに繋ぎ止められ、守られ、ミルドレッドは次元のシステムに働きかけ、太陽の空間を繋げた。
何百メートルと言う風が吹き荒れ、轟音となって飲み込もうとする最後の抵抗も――ほんの数秒。
静寂に気付いた時、あいつは居なくなっていた。




