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序章
遅刻して教室の前に立つ少女。時刻は10時32分。2限目と3限目の間に設けられた休み時間に彼女は登校してきた。ガラガラと音を立たせ扉を開くと無数の冷たい視線のナイフとクスクスと嘲る声が少女の身体を突き刺す。
彼女は誰とも顔を合わせないよう、傷や汚れで劣化した床を見つめながら自席を目指した。目的地にたどり着くと異変に気づく。
「学校来んな白髪ババア」
「死ねよ、魔女」
油性ペンで書かれたのだろう、手で落書きを拭っても少し指が汚れただけだった。
日に日に少女に対するイジメはエスカレートしていた。少女、朝比奈絵里はペンで真っ黒に汚された机の椅子に腰を降ろし、入道雲の漂う夏の空を見上げた。