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エピローグ

 どういう仕掛けになっているのか、切られた指は出血も痛みもなかったが、まさかそのまま仕事に行くわけにも行かず、俺は仕方なく翌日亜紀に貰ったメモの所に電話を入れた。

 

 住宅地の一角に、看板も出していない壊れかけた古い病院があって、建物同様干物のように痩せこけた医師が、ウレタンスポンジでできたような指をつないでくれた。半信半疑だったが、新しい指は数時間で俺の体になじんで、少し曲げにくいことを除けば、生活するのにはなんの支障もなかった。


 月曜日が来て、俺はいつもどおり出社した。金曜の夜の、まるで悪夢のような出来事の衝撃は少しづつ薄れ始めていた。オフィスに入っていくと、何となくざわざわしている。女子社員たちが、二、三人ずつ固まって何か話し合っている。


「おい、知ってるか?」

 沢村が俺のデスクに近づいてきた。

「富永、死んだらしいぞ」

「えっ?」

「昨夜、事故にあったんだ。病院に運ばれたがだめだったらしい」

 

 俺は狐につままれたようだった。

「今夜、通夜があるから、女の子たちは出席するんだ」

 そう言うと沢村は離れていった。亜紀のことを快く思っていなかったとはいえ、声高に話すような話題ではない。誰もが言葉少なに通常の業務に取りかかった。

 

 昼前に俺のパソコンに一通の社内メールが届いた。それを開いた俺は首をひねった。真っ黒な画面に白い文字が浮かび上がっている。


「アクマトノケイヤクヲミダリニヒトニハナシタモノハシュクセイサレル」

 

 社内から発信されたものに間違いないが、見覚えのないアドレスだった。俺は目を上げて、フロアを眺めた。誰もが無表情にキーボードを叩いている。


――この中の誰か、いやもしかしたら、ここにいる全員?

 

 そう思った瞬間、俺の背中にかつて経験したことのないような悪寒が走った。(了)

                                  

 

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