仲間
「そういや相棒、オレたちってことはこの嬢ちゃんも一緒に行くのか?」
ロニセラは抱上げていたメリーを下ろしてやりながらエスターに尋ねた。エスターはああと頷く。ロニセラから解放されたメリーは慌ててエスターの後ろに隠れた。二人の男の間に微妙な空気が流れる。
「あー、いや、その…何だ。随分と懐かれてんのな」
ロニセラの言葉にエスターは頭を掻いた。何とも歯切れの悪い相方の言葉に、余計に照れてしまったのだ。いつもなら茶化すように言う彼だから尚更である。
そんな二人の耳に入ったのは、緊張が解けたのもあってかぐーっと鳴り響くメリーの腹の虫だった。二人の視線が自分に集まり、メリーは真っ赤な顔をぱっと両手で隠した。
「しゃーねーなあ、このロン様の出番ってやつかあ? 嬢ちゃん、美味すぎて腰抜かすなよー」
ロニセラはシャツを腕捲りしながら得意気な顔をして言った。そしてパチンと指を鳴らせば、どこからともなく食材やら調理道具やらが姿を現した。メリーは幻でも見ているのかと何度も目を瞬かせる。
「あれはあいつが持つ魔力の一つ、ハイドアンドシーク…あいつは空間をある程度自由に操ることができるんだ」
「魔力?」
メリーはエスターを仰ぎ見た。魔力、ということはロニセラは魔術師かなにかだろうか。そう考えたメリーの体が強ばる。それに気付いたらしいエスターはぽんぽんとその頭を撫でた。
「オレもあいつも『呪われた人間』だからな。お前の知ってる奴とは違う」
「呪われた、人間…」
「そうだ。ある魔女によって…な」
メリーはそのエスターの言葉にはっとする。ある魔女によって『呪われた人間』、ということはだ。つまりその分類に自分や亡くなった母親も含まれるのではないか。その考えを見透かし、肯定するかのようにエスターは頷いた。
「お前は一人じゃない。少なくともオレとロンとはお前の仲間だ」
「なかま…」
じわりとメリーの目に涙が浮かぶ。ずっとひとりぼっちだった自分を仲間だと言ってくれることがとても嬉しくてしかたなかった。その涙を見たエスターはまた慌てる。
「だーかーらー! 泣くなって、オレが泣かしたみたいだろ!」
はあと溜め息をつくエスター。ゴシゴシと服の袖で目元を拭い、メリーは嬉しそうに笑う。全く、調子が狂うなんてブツブツ呟いているエスターの背後から陽気な声がした。
「おーい! お楽しみ中に悪いんだけどよ、飯の用意が出来たぜー」
ロニセラの両手には山盛りの料理の皿が乗っている。食欲を刺激する香りに今度はエスターの腹の虫も空腹を主張した。いつの間にか簡易的なテーブルと椅子までもが用意されている。
「腹が減ってはなんとやら、って言うだろ?」
テーブルに料理の皿を置きながらロニセラはニッとその鋭い深緑の瞳を細めた。