おとぎ話の王女様
むかしむかし、あるところに一人の王女様がいました。
王女様は大好きな父王とたくさんの兄王子たちに囲まれていましたが、毎日孤独でした。それは王女様が生まれた時に王女様の母親である王妃様が死んでしまったからでした。
王様はいつも悲しそうな目をして言っていました。王妃様は悪い魔女に呪いをかけられたのだと。そしてその呪いから王女様を守るために命を落としたのだと。
だけど、王女様は知っていました。本当は、王様は王女様のことを少しだけ恨んでいることを。
なぜならそれは王女様の心の中に王様の負の感情が時折流れ込んでくるからなのでした。
王妃様から王女様への愛情の物語は時に、王女様への負の感情を交えて語られました。お前がいなければ、王妃様は呪いなどかけられなかった。お前が生まれなければ、王妃様は命をかける必要がなかった。優しくしてくれる誰もがそう思っていたのです。
王女様はとても苦しみました。本当は自分は誰にも愛されてなどいないんじゃないか。自分には誰からも愛してもらえる資格がないのだと。
悪い魔女は王妃様と血の繋がりを持っていました。醜い容姿をもって生まれた魔女とは違い、可憐な花のようだった王妃様はやがて王様と出会い、幸せに暮らしていました。
王妃様が新しい命を宿した時、王国中が喜びました。それが初めての王女様だと分かった時にはその喜びは大きくなりました。本当は王女様は誰からも愛されていたのです。
しかし、それをよく思わなかった者が一人だけいました。悪い魔女は幸せな王妃様とそのお腹の中にいる王女様に嫉妬し、ある呪いをかけました。
それは、王女様が生まれてから十五年経った時に命を失うという呪いでした。王妃様は毎日のように泣き暮らしました。どんどん衰弱していく王妃様を見ていた誰もが心配でした。
まだ寒さの残っている春のある日、王女様は生まれました。弱々しく産声を上げる我が子を抱いた王妃様は、ある魔法を使いました。王妃様は弱った自分自身よりも、王女様を守りたかったのでした。
王女様のチョコレート色の髪と瞳は亡き王妃様にそっくりでした。幼子が少女へと変わっていく頃、王様は王女様を避けるようになりました。あまりにも記憶の中にいる王妃様と瓜二つだったからでした。
いつしか王女様はひとりで過ごすことが多くなりました。自らも王様や兄王子たちを避けるようになったのです。そして王女様に誂えられていた庭でこっそりと泣いていました。
そんな王女様にある日、一人の女が声を掛けたのです。女は、王妃様の姉だと王女様に言いました。確かに絵画の中にいる王妃様や鏡に映し出される自分とよく似ている女でした。
その女からは他の誰もが王女様に向けている負の感情が感じられませんでした。王女様はとても嬉しくなりました。
女は王女様をこっそりと城の外へと連れ出してくれました。楽しい一時に王女様の苦しみは薄れていくのでした。
しかし、そんな幸せはいつまでも続きませんでした。
王女様が十四になった頃、女は急に姿を消しました。王女様は女の姿を探しましたが、どこにも見当たりませんでした。またひとりぼっちになった王女様は泣き暮らしました。
暑い夏が過ぎ、鮮やかな秋がきてやがて冬になろうとしていても女は姿を現しませんでした。王女様はすっかり寂しくなった庭にまたひとりで居ました。