第24話「決着」
姉の環境を私は警察の人から聞いた。
中学の頃から受け始めたDVで相談を受けたこともあったらしいが、ことごとく相手の男に言いくるめられ何もできなかったらしい。
私は姉の境遇を聞いて心が痛んだ。
姉はずっと、あの日から苦しみ続けていたのに……
私は姉のことなんて忘れて、ただのうのうと生きてきていた。
「双葉が……朱姫が気にすることなんてない」
呆然とする私に、一之瀬くんが声をかけてくれた。
父に似た優しい温もりが頭にのせられる。
「朱姫だって、散々姉さんに苦しめられたんだ。だから自分を責める必要なんてない」
「そんな……でも、お姉ちゃんはずっと独りで……!」
「だとしても、たった一人の妹を傷つけるようなやり方は間違ってた」
一之瀬くんの正論に私はぐうの音も出なくなる。
大好きだった姉。あの日から私たちの関係は歪んでしまったのだろうか。
でも……だからこそ、今正さなきゃいけないこともある。
「あの、刑事さん。お願いがあります……」
私はメガネの警察の人に頭を下げて、あるお願いをした。
* * * * *
――ピンポーン……
今にでも崩れてしまいそうなボロアパートの2階の一室。そのインターホンをしっかりと押した。
外からでも聞こえるインターホンの音。これで聞こえませんでしたは通用しないだろう。
私は深くかぶっている帽子の下で、深く深呼吸をした。
「……はい」
聞こえた返事はしわがれて聞こえるが、女の人のものには間違いない。どうしてこんな声になっているのか、想像はあまりしたくなかった。
だから口早にその声に応じる。
「あー、この度隣に引っ越してきたものです。……挨拶にと思いまして、良かったらここを開けていただけませんか?」
私の言葉に口ごもる女の人。
けれどしばらくしてドタドタと音を立てながら、扉に近づく一つの足音。
そしてゆっくりとドアが開かれた。
「……どうも」
出てきたのはインターホンの声とは違って、男の人だった。
一見、人畜無害そうな雰囲気を持っている。この人がDVをしているなんて見えないが、それこそがみそなんだろう。
軽く会釈をしてみせるその男に、私はかぶっている帽子のつばを掴んだ。
「はじめまして、お初にお目にかかります――妹の朱姫と言います」
そう言葉にしながら帽子をとった。
詰め込んでいた黒髪がはらりと、重力に従って落ちる。ダボダボのパーカーを着ていたため、性別を判別できなかっただろう。
とった帽子の奥から、姉と瓜二つの私の顔を見た男は目を見開いていた。
「――朱姫……?」
「おまっ!?」
奥の寝室からふらふらと姉が姿を見せた。私と瓜二つの容姿をしているが、顔色はあまり優れない。
私の対応をしていた男は姉が姿を見せたと同時に、慌て始めた。
だけど、もう遅い。
「そこまでだ!両角 征夫、殺人未遂及び傷害罪の現行犯で逮捕する!」
部屋の外に待機していた警察の人によって、浮気男・両角 征夫は取り押さえられた。
姉は目の前の光景が理解できてないみたいで、その場に呆然と突っ立ている。
ゆっくりと近寄ると、姉は泣き崩れた。
ごめんね、を何度も繰り返す姉の肩に手を置いて私は告げる。
「あのね、お姉ちゃん。こういう時は謝罪も大事だけど……ありがとうって言うのが正解なんだよ?」
そう微笑んで言うと、今度は『ありがとう』と姉は繰り返し始めた。




