第22話「裏話その四・五、取り換えっこ」 Side 市花
――ついにこの日がきた。
私が自由になれる日。朝早くから、妹が出てくるのを待っていた。
妹は普段通りに家を出ていき、それを背中が見えなくなるまで見送る『新しい母』。
その母が家に入ってから、私は行動に移した。
家のインターホンを押して、『母』が出てくるのを待つ。
『はーい!あら、朱姫ちゃん。忘れ物でもしたの?』
『ううん、そうじゃなくて……』
言いづらそうにもじもじと仕草をすると、とりあえず家の中へ入れてもらえた。
妹と同じローファーを脱いで、リビングへ向かう母へとついていく。
その先には、懐かしい日の父がいた。少し白髪が増えたように見えるけれど、間違いなく本当の父だ。
何故だか溢れてきた涙と喜びを抑えきれず、私は父に飛びついた。
『おおっと!?朱姫か、どうしたんだ?今日は学校だろう』
父が妹の名前で私を呼ぶ。
それが少し心苦しいけれど、優しく頭を撫でてくれる手が嬉しかった。
あの浮気男ではありえない態度、仕草、声音……
すべてが昔の父と同じで嬉しくて、愛しくて、離れたくない。
私が泣きやむまで、父と母は黙ってそばにいてくれた。
* * * * *
落ち着いてから、今日は学校は休みだったと嘘をついた。
どこにでもありそうな幸せな家庭。妹はこんな環境でずっと育ってきたのか。
――私と違って……
その時、母が玄関が開いたような音がしたという。すぐに妹だと気付いた私は、出ようとする母をわざと声を高らかに止めて玄関へと向かう。
リビングのドアを閉める音と、玄関から出ていく音は同じだった。
妹はいったいどう思ったのだろうか。『私』と顔を合わせると消えてしまうとでも思ったのだろうか。
顔を合わせなくても、もうここにも学校にも妹の居場所なんてどこにもない。
成功した。”あの日”から考え始めた計画が。もう二度と、”あそこ”へ戻らなくても良いんだ。
――そう思っていた。




