第19話「裏話その一、帰り道」 Side 市花
高校一年の時に、必死にアルバイトして貯めたお金で買った、妹が通う高校の制服。
それを着てしまえば、赤の他人が『私』を見間違えることは必至だろう。それでいいし、そうでなければ困る。
事前に噂で聞いた妹の話。
容姿端麗で、成績優秀。才色兼備、運動神経も抜群。性格はクールに見えて優しいところもあり、笑顔は可愛い。
私とは真逆な性格に、正直笑ってしまえる。
この計画を実行してしまえば、きっと以前のように慕われる姉ではなくなる。
その覚悟を今一度決めて、私はもぐりこんだ。
持ってきた自分の上履きを履いて校舎へあがる。
廊下を進むほど、通り過ぎる人は『私』に釘付けになる。
こんなに妹が慕われていることを誇りに思うと同時に、憎らしさが募っていく。
そして最初に仕掛けた罠、ある男子生徒を呼び出した空き教室へとたどり着いた。
この男子生徒は田中、というらしい。
一年の時、妹の生活リズムを探るため尾行していた折、ストーキングしているのを知ったのだ。
『や、やあ……話って何?』
あからさまにどぎまぎとしながら、問いかけてくる田中。
どう見ても私には不釣り合いだけど、今の私は『私』じゃない。
『あのね、田中くん……』
私はゆっくりと言葉を紡ぐ。決して聞き間違えだと思わせないために、照れる振りまでした。
大喜びする田中を表面上は笑顔、裏では気持ち悪いと思いながら見つめていた。
ちらっと壁にかかっている時計に目をやると、そろそろ妹が下校する時間だ。
『それじゃあ、玄関で待っててくれる?すぐに荷物を持ってくるから……』
そう言って私は田中を玄関へと向かわせ、一緒に帰ると言ったのに友人と歩いている妹をストーキングさせた。
――さあ、復讐の始まりだ。
* * * * *
最初の仕掛けということもあり、少し様子をうかがうことにした私は、妹をストーキングする田中を尾行する。
妹は今日も近道を通って帰宅しようとしていたが、何かを察したのか振り返った。
私はまだその道に入っていなかったため、角に隠れてやり過ごす。
しばらくして覗き込むと、既に妹と田中の姿はなく、私も先へと進む。
道を抜けた先で、猫と戯れていた妹に近づく田中を見つけた。何を話しているのかは遠すぎて聞こえないが、妹の顔色が変わったのはわかった。
一目散に逃げていく妹を、田中はさらに追いかけていく。
もともとストーキング性あるし、大丈夫だろうと高をくくった私もその日は帰ることにした。
どうせ今日ばれなくても、あの様子なら明日には田中が暴露するだろう。
ああ、可哀想な妹。なんて考えつつも、私の顔はきっと笑っていた。