第1話「私の家庭内事情」
私の家族は3人家族だ。
父と母、そして私のたった3人だけの家族。だけど簡単に見えて実は複雑な家庭でもある。
父と私の間には血縁関係があるが母と私には血縁関係がない。理由は母が本当の母親ではないから。
私の本当の母親は、私が小学校に上がる一年前に父に浮気がばれ家を出て行ったらしい。曖昧な表現の理由は、当時の私の記憶が抜けているからだ。
だから私は本当の母親の顔を覚えていない。私は父に似ていると昔から周りの人に言われるから、母の面影はないのだろう。
しかし孤独という気持ちは持たなかった。寂しいと思うことは時折あったけれど、父は私を目いっぱい愛して育ててくれたから。そんな父のために、私は小学校低学年の時から料理を覚え、いつも仕事を一生懸命して帰ってくる父を迎えるのが日課だった。
そんな日々が6,7年続いたある日、父が私に告げたのだ。
『もし、新しいお母さんができるとしたら……どう思う?』
真剣な雰囲気だったから私も少し考えてから父に答えた。
『うーん……お父さんをちゃんと愛してくれて、傷つけない人ならいいよ?ワガママを言うと、私のことも好きになってくれる女性なら、なおさら嬉しいかなあ』
そう言うと父が机の上に涙を零し出したから心底驚いた。父に近づくと抱きしめられて、何度も『ありがとう』と告げる父は子どものように見えたから不思議だ。
その翌日、父が帰ってきた時、私の知らない女性が一緒だった。とても綺麗な女性で、優しそうな雰囲気を持っている女性。
父はその女性を家に招き入れて、リビングで私に紹介した。その人こそ、今の私の母である。
そして父はその女性と再婚して、昔も笑っていたけれどその頃より幸せそうな笑顔になったような気もした。
新しい母との距離を掴めずにいた私だけど、母の方から歩み寄ってきてくれて今では本当の母親のような気がしている。
高校に進学してしばらくたったある日、今度は私が父に問いかけた。
『お父さん、今しあわせ?』
『もちろん、幸せだよ。お前がいて、お母さんがいて……とても幸せだ』
とても嬉しそうに笑う父の様子を見るだけで、私も幸せな気持ちになる。そんなどこにでもあるごく普通の幸せな一般家庭の中で私は育っていくのだった。