第17話「事情」
駆けつけた病院は、この街で一番大きな病院だった。
受付に名前を言うと手術室の前まで通された。
「朱姫……!無事だったのね!?」
「お母さん!無事って……?どういうこと?」
私の姿を見た途端、母は私に抱きついてきた。すすり泣く母の背中を優しく撫でながら、母に問いかける。
けれど母は涙が止まらないのか、私の問いかけに答えてくれなかった。
「それは僕から説明しましょう」
口をはさんだのは、スーツ姿をしていてメガネをかけている成人男性だ。
見た目は誠実そうなお兄さん。おそらく年齢は30歳前後だろう。
見知らぬ人のため、私は少しだけ警戒心を抱いた。
「……あんた、誰?」
私についてきてくれた一之瀬くんが、そのスーツの人に問いかける。
スーツの人は一之瀬くんを一瞥した後、ずれてもいないメガネをかけ直す仕草をした。
「……私は警察のものです。双葉さんの奥さんから連絡をいただきました」
スーツの人、もとい警察の人は警察手帳を掲示して証拠を見せる。
すぐに内ポケットにそれを戻すと、話を続けた。
「奥さんの話によりますと、奥さんが夕食の買い物に出かけたのが午後16時頃。その間、ご自宅には旦那さんと娘さん……つまり貴女がいた」
私は一之瀬くんと顔を見合わせる。母が言う私とは、おそらく姉のことだ。
その時間、私は一之瀬くんに見つかった頃だから。
「そして奥さんが帰宅したのが17時30分頃。玄関の鍵が空いていることを不思議に思いながらドアを開けると……旦那さんが血を流しながら倒れていた」
母は警察の人の言葉にピクリと反応した。おそらくまぶたの裏に焼きついているのだろう。
私は母を近くの椅子に腰かけさせて、その隣に座り背をさすった。
「直ぐに救急車を呼んで、警察も呼んだが貴女がいないことに気付いた。部屋中を見て回ったが貴女の姿はなかった……」
警察の言い回しが気になって顔を上げる。そこに眼鏡越しだが暗い瞳で私を見つめている姿があった。
疑われている、そう理解して私は言葉を紡いだ。
「……事情は把握しました。ですが、私は犯人じゃありません。もっと正すなら、母や父と一緒にいたという『私』は私じゃありません」
きっぱりと私がそう言うと、警察の人は訝しげに眉をひそめた。
ずっと泣いていた母も、顔をあげて私を見つめる。
「貴女ではない、貴女にそっくりなドッペルゲンガーがその場にいたとでも?」
「ドッペルゲンガーなんていう非科学的なものじゃありません」
バカにしているのか、というような様子で言葉を紡ぐ警察の人にきっぱりと言い返した。
疑いのまなざしを受けながらも、真っ直ぐ見つめ返す。
「母と父と一緒にいた『私』は、正しくは私の双子の姉……市花です」




