12/26
第11話「その五、もう一人の私」
無我夢中で走って、家にたどり着いた。鞄から鍵を取り出して玄関に飛び込む。
今日という日に限って父と母は会社が休みだ。どうか自分の予想が外れているように、そう願いなら玄関を開けた。
リビングの方から父と母の楽しそうな声が聞こえてくる。
ああ、良かった。やっぱり気のせいだったんだ。
そう思って視線を下へと落として、固まった。
玄関には父と母の靴が並べられてある。屋内に父と母がいるんだから当たり前だ。
けれどもう一つ。私と全く同じローファーがそこにあった。
「今、玄関の開く音がしなかった?」
「気のせいだろう。鍵は閉めてあるんだろ?」
「じゃあ、私が見てくるよ!」
聞こえた三人目の声。それは私に良く似た声で、身体がまた震えだす。
こないで、そう思いつつ確かめる絶好の機会だ。
私は震える足を必死に奮い立たせ、リビングから出てくる人の後ろ姿を目撃した。
漆黒の髪は私と同じ長さで、白い肌も同じ。スタイルも同じように見えた。