もしも願いが叶うなら
もしも願いが叶うなら─────────────
─────────────神様、私に勇気をください。
県外の別の支部から助っ人として来た彼を見て、私は一目で恋をした。
知的で優しく紳士な彼はあっというまにチームの中になじんでいった。
かたや自分は同じ建物内だけど、別のチームで動いていてお昼休みの僅かな時間くらいしか一緒に居れなかった。しかもお昼休みもあえてバラバラに設定されている為、休み時間が被らない日もざらにあった。また、一緒にとは書いているがせいぜい近くのソファに座ったり「お疲れ様です」と挨拶をするくらいだった。……逆に言えばそれ以上なんておこがましく感じて、出来るわけがなかった。
このまま、彼の出張期間が終わるまで話しかけられないまま、姿を見ているだけのままだと思っていた。
だけど、それは違っていて、
ある日の休日。
用事を済ませた後、たまたま職場の前を通りかかった時────
彼が職場の前に立っていた。しかも周りを見渡し、明らかに困っているようだった。
そして、
その彼と目が合ってしまった。
とっさに他の人はいないのかと周りを見るが、誰もおらず私だけだった。
好意を持っている人が困っているのにそ知らぬふりをするなんて私にはどうしてもできなかった。
……それに、自分を見てもらうチャンスだと計算してしまう私もいたし。
「お疲れ様です。あの……どうかされたんですか?」
どうかされたんですか?じゃないでしょ自分!
緊張で声が裏返らないように意識するあまりうまく話せなくて焦りが生まれる。
「あ、お疲れ様です。あー、実は明日から地元に帰るんですが何を買えばいいのか分からなくて……」
少し恥ずかしそうに話す彼に更にときめく。……いや、それどころじゃないでしょ!しっかりしないと!
「そうなんですね。あれ?チームの人は何かアドバイスとかなかったんですか?」
「お酒を勧められたりとか色々教えてくれたけど、どこで売っているのか分からなくて」
オススメとして聞いていたらしい物は確かにここら辺で有名どころばかりだった。
売り場まで教えてあげようよ……と思わないでもなかったが、勿論心の奥に仕舞い込む。
駅なら色々売っていたはず……
「あの……たぶん、この内容なら駅に行けばお土産として売っていると思いますよ」
「あ、そうなんですね。教えてくれてありがとうございます」
笑顔を向けてくれる彼に思わず顔が熱くなる。
「い!いえ、たいしたことではないので!」
きっと赤い顔を見られたくなくて、顔の前で両手を振る。クスッと笑ったような音が聞こえさらに顔に熱が篭る。
「あの!よければお付き合いしますよ!」
「え?そんな悪いよ」
「大丈夫です。ちょうど買いたかった物があるし!ついでです、ついで!」
「ん~なら、御願いしてもいいですか?」
「はい!」
何を言っているんだ自分!?という思いもあるが、時間を巻き戻すことも訂正することもできなくて……というよりもしたくない。
もっと彼を知りたいと思ってしまった。もう見るだけでは満足できそうもなかった。
目を合わせて、1つ1つの説明に驚いたり笑ったりする様子を見て更に彼を好きになっていく────
「いやぁ~長々とつき合わせちゃってごめんね」
「いえ、私も楽しかったので……」
貴方の見たことない一面が見れてとても嬉しかったです……なんてとてもじゃないけど言えない。
「色々教えてもらって助かったし、お礼に何かおごるよ」
「え!?いえそんなたいした事していませんので!」
「いいの。俺が何かしたいの」
そりゃ一緒にいたいけど!その気持ちは嬉しいけど!身に余るご褒美だよ!
「あ、あそこでお茶しようよ。歩くの疲れたし」
「え?え?」
手を握られ、グイグイと引かれて、結局近くのカフェに入ってしまった。
「いらっしゃいませ」と、いい笑顔の店員さんに、
「すみません、コーヒーください。あ、何がいい?」
貴方は負けないくらいのいい笑顔で聞いてきた。
「えと、アイスティを御願いします。会計はべ……」
「一緒で御願いします」
「かしこまりました」
せめて別会計にしようとしたが、一緒にされてしまった。しかも付き合ってくれたお礼だからとお金を受け取ってもらえない。
……あぁ、うん。諦めよう。私にはどうすることもできない。大人しくおごってもらおう。御礼だそうだし。もう、そう思うことにした。
ただし、コーヒーとアイスティーの受け取りはさせてもらったけど。
ひんやりとしたアイスティーは私を少し冷静にしてくれた。ただし、前が見れないけど。
「今日は助かったよ。ありがとうね」
めっちゃ素敵な笑顔で話す貴方がいるし!
「いえ……ご家族の方に喜んでいただけるといいですね」
わたしは元々あった情報に少し付け加えを行って説明しただけだ。こうした方が食べなれていない人にはいいと思いますよ程度。
こんなに感謝されるような事はしていないはずだ。
「きっと喜ぶよ!こんな可愛い女の子に選んでもらった物だし!」
「!!!?」
とんでも発言にあわやアイスティを噴出す所だった。か、可愛いって!!
「そ、そんなことないですよ!というか、お土産を食べて喜ぶんですよね!?」
「それも喜ぶと思うけど、君のことを言った方が絶対喜ぶと思うな」
なぜに!?
「あ、そうだ。メアド交換しようよ」
「え?」
「あ、急に言ってごめんね。そうだよね、こんなオジサンじゃ無理だよね」
笑顔からみるみるションボリとしてしまって焦る。そんな捨て犬みたいな顔しないで!
「だ、大丈夫ですよ!交換しましょう!」
「ほんと!?んじゃさっそく……」
とても嬉しそうな顔でいそいそとスマホを取り出す彼にちょっと期待をしてしまう。そんな訳ないだろうに。
スマホを出してメアドを交換した。……この連絡先は保護しておこう。
そうして、スマホの時計を見ると結構いい時間になっていた。
彼の実家はたしかかなり遠いはず……明日もきっと早いのではないかと思う。
「あ、もうこんな時間ですね」
スマホを見て今気がついたかのうように装う。
「あ、ホントだね。楽しいと時間が短く感じるね」
また、そんな嬉しいことを言う。本気にしたくなる。
「すみません、私これから用事があるので失礼します」
本当は用事なんて無いけど。そうしないと離れがたくなってしまう。
「あ、そうだったんだ。大丈夫?つき合わせてゴメンね」
慌てる彼に言い方を失敗したかなと少し後悔する。
「大丈夫です。ご馳走様でした。あと……お気をつけて。土産話楽しみにしています」
店先でペコリと頭を下げて家路へとついた。
その後、彼からメールや休憩時間に話しかけられたりするようになった。
見るだけだった人と目を合わせて話せることが嬉しかった。
ただ、欲張りな私はさらに先を求めたくなってしまった。
でも、この関係が壊れてしまう恐怖で二の足を踏んでしまう。
もしも願いが叶うなら─────────────
─────────────神様、私に勇気をください。




