vector D→A ~河本大地の意地~
「あ・す・かあああああああああああああああああああああッ!」
「ちょっとダイチうるさい」
江梨は振り向きもせず心底うんざりしたように言った。
「あーお前には用ねえから」
「わかっとるわそんなの!明日香ならまだ来てないわよ」
「あ?今日一緒に来なかったのか?」
「なんか“先行ってて”ってメール来てた。誰かさんのせいで寝不足だったんじゃないかしらー?」
江梨の皮肉たっぷりの台詞にうっ、と呻く。やっぱあれはまずかったか・・・。ごまかすためとはいえ喧嘩別れしちまったし。
「まったくホントバカよねアンタ。そのまま告白しちゃえばよかったのに」
「そうだな」
「・・・・・・は?」
意表を突かれたのか江梨はきょとん、として固まった。
「え、何どういうことよ?どういう心境の変化?」
しかしまた状況を楽しむようににやにやと笑い始める。
「やっぱ諦めるとか性に合わねーからさ、もうこうなったらとことん攻めて攻めまくることにした。絶対おれが幸せにしてやんよ、ってな」
「わーストーカー予備軍発見・・・」
「うるへー、最終的に振り向かせりゃあいいんだろ。終わりよければ、だっけか」
ふっと笑ったおれに江梨は確かにね、と微笑んだ。
「そのほうがアンタらしいわ。せいぜい頑張んなさいよ?分かってると思うけど・・・」
「なんだよ?」
「ウチの明日香を嫁にやるからには、それなりの対価は払って頂戴ね?」
「・・・・・・はい」
―そうしておれは昼飯一週間分と引き換えに、江梨という心強すぎる味方を得たのだった。