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vector C←D ~河本大地の決意~

もう嫌だ、軽く死にたい。

「おい、明日香―」

ふい、と顔を背けて江梨の方へと行ってしまう明日香。

あの一件以来明日香はやはり怒っているのか、おれと顔も合わせようとしない。

縋るように江梨を見やると、奴は自業自得よ、と言わんばかりに舌を突き出してみせた。

・・・なんだよ、おれが悪いことくらい分かってるっつーの。



「はあ・・・」

柄にもなくため息をついた。うわ、ため息とかまじで久しぶりかも。わー懐かしー。

とか言ってみても虚しくなるだけだった。

「あー、おれすんげー馬鹿だなあ・・・」

なんていうか。いやまあ明日香のことは大好きなんだけどな、それがこう、いろいろ溢れ出しちゃったのは分かるんだけどな、

「なんであのタイミングで告白したし・・・」

もう最悪だ。めちゃくちゃだ。応援するとかその辺の話はどこ行ったよ。

後付けのようにしたフォローも全然上手くいった気がしねえ。こりゃあ完っ全に・・・嫌われたな。

「はあ・・・」

何度目か分からないため息をついて、

「・・・さっきからそこで何してんの」

「へ?・・・あれ!え?」

タイミングを逸して教室に入って来れなかったらしいクラスメイトに声をかけた。気付かれてないとでも思ったかふははッ!おれは背後の気配だって手に取るように把握できる男なんだぜえっへん。

そうっと扉を開けておずおずと顔を覗かせたのは天野だった。

「あー、委員会も終わる時間なのか。・・・やべ、部活サボっちまった」

かれこれ一時間も放課後の教室で独りため息をついていたらしい。ホント、らしくねーな。

「・・・・・・あの」

「ん?」

「・・・なにか、あったの?」

うつむいたまま視線だけよこして天野が尋ねる。

・・・まいったな。周りにバレるくらい変なんだ、おれ。

「別になんもねーけど?」

「本当に?」

「・・・・・・」

あー、なんでそこで黙っちまうかなあ、おれ。これじゃ何かあるのバレバレじゃんか。

「・・・前に、笑わせてくれたから」

不意に天野が呟いた。

「だから、今度は私が力になりたい・・・って、そう思うの」

顔を上げて今度はしっかりと見えた天野の瞳には、強い意志が見て取れた。

・・・いい子だな、なんて不意にそう思った。

例えばそう、明日香のことをすっぱり諦めるとしたら、次におれが好きになるのはこんな子なのかもしれない。もうホントにさ、おとなしいいい子。明日香みたいに感情的じゃなくってさ。

「・・・・・・はは」

・・・全然上手く想像できなくて笑えた。なんだこれ。ありえねーよそんなおれ。

「河本くん?」

「あー悪りい、なんか全部解決したかも」

「え?」

そうだ。おれが好きなのは伊波明日香。明日香一人だ。諦めるなんてありえねーし、他の誰かを好きになるなんてもっての他。

明日香が幸せならとかそんなのどうでもいい。ただおれ自身が明日香の笑顔を見たいだけだ。自己慢のためにやってんだ。応援だ?はッ、誰がそんな似合わない真似するかよ。

明日香が別の男を好きなら、おれに振り向かせりゃあいいだけの話だろうが!なに日和ってんだ大地!

「あーらしくねえらしくねえ!」

「ちょ、ちょっと河本くん・・・」「サンキュー天野、お前のおかげで見えたわ」

背中をばしばしと叩く。あ、ちゃんと手加減はしてるぞ?そのくらいはおれも考えてんだからな?

「ど、どういうことなのかさっぱり分からないけど・・・力になれたならよかった」

「おう、なったなった!まじで助かったぜ天野!」

ばしばしばし。

「いや、あの・・・そろそろ叩くのやめてもらえると・・・」

「おっとめんごめんご・・・ってもうこれ死語か?」

ふと真面目に考えて言うと、天野はくすりと笑った。

「別にいいんじゃないかな。誰かが覚えてる限りは、言葉は死んだりしないって私は思う」

「・・・おお、なんてナイスなお考え・・・これでおれも心置きなくギャグを飛ばせるぜ」ふう、と額の汗を拭うふりをしてみせると天野はまた小さく笑った。・・・あ、ちょっとかわいいかもって違うだろ。

「―天野ってさあ、好きな奴とか居んの?」

「ふぇっ、ええ!?」

途端に真っ赤になって慌てふためく天野に言う。

「居るんだったらさ、変に考え込んで諦めるとかは絶対やめとけ、無理だから。カッコ悪くても最後まで足掻いて振り向かせた方が絶対いい。なんたって一番自分が満足出来っからな」

「河本くんらしい・・・考え方だね」

「まーな。じゃ、そーゆーことで!ダッシュッ!!」

しゅたたたたたたー。颯爽と走り去るおれ。いやー、なんかカッコ良くねえ?

「・・・さーて、もうちっと頑張るとすっかな」


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