令嬢のサンドウィッチ
すーごい久々。すーごい、すーごい久々。
「おはよう!朝食の卵は足りてる?」
「ええ、足りてるわ!」
「おーい、パンを見てきてくれ!焼きすぎたかもしれん!」
「お花のお水はやったの?」
朝の城内は色んな声が飛び交っている。誰もがあっちへバタバタ、こっちへバタバタと自分の仕事に奔走している。そんな活気溢れる朝が、アリスは大好きだった。
調理場をすり抜け、掃除婦達に挨拶し、綺麗なエプロンをキュッとしめてオリビアの部屋へ向かう。
城の主達が過ごすこの棟だけは、静かでゆったりと時間がすぎていた。
エリックの部屋の前を急いで通り過ぎようとした時、アリスに「おい」と声がかかった。
誰かは分かっている。アリスは内心うんざりしながら振り返ると、声の主に恭しく頭を下げた。
「おはようございます、エリック様」
エリックはめんどくさそうにアリスを手で制すと、口を開いた。
「あいつは今日もサンドウィッチを作って来るつもりなのか」
迷惑極まりないといった態度にアリスは少しムッとする。
アリスの仕えるオリビアは、旦那であるエリックとの仲が悪い事をとても気にしている。最初は売り言葉に買い言葉といった様子でギャーギャーと口喧嘩を繰り返していた二人だが、周囲の野次馬的な噂を聞き、それではいけないとオリビアは思ったらしい。それから毎日オリビアは、健気に食べてももらえないサンドウィッチを作ってエリックのもとへ運んでいる。
美しく優しいオリビアを慕うアリスは、食べてもらえないサンドウィッチを毎朝作るオリビアが気の毒でならなかった。
だからこの男が気に食わないのだ。
「お作りになっていると思いますよ。昨夜ティアレさんにご相談されてらしたので、改良してここへお持ちになるはずです」
ティアレの名前を出すと、エリックは端正な顔を歪ませて溜息を吐いた。
「持って来なくていいと伝えておけ。俺はサンドウィッチなんか食わん」
大好物のくせに、とは口に出せず、アリスは黙って頭を下げた。
「オリビア様、おはようございます」
「あ、アリス、おはよう。ねえ見て、これどうかしら。美味しそうでしょう」
改良に改良を重ねたサンドウィッチをアリスに見せると、彼女は一瞬目を泳がせた。
「とても美味しそうです!」
ああ、エリックに何か言われたんだわ。
思わずバスケットのサンドウィッチに目を落とす。
毎朝作るサンドウィッチの行方は、考えなくても分かっている。ただこれ以外、エリックに歩み寄る術は思いつかなかった。
「……やっぱり迷惑よね、こんなの」
「いえ、そんなことはっ……」
コンコン、とグッドタイミングでノックがなり、アリスはホッとしながらドアを開けた。
「あら、ティアレさん」
「おはようございます、オリビア様」
オリビアがニッコリと挨拶をすると、ティアレは精悍な顔を綻ばせて頭を下げた。
「どうしたの朝早く。エリックから逃げてきたの」
あながち冗談でもなさそうな様子でオリビアが首を傾げる。ティアレは苦笑しつつ首を振った。
「サンドウィッチの件です」
「「サンドウィッチ?」」
オリビアとアリスが目を合わせる。
「ええ、」とティアレは頷いた。そして満面の笑みでオリビアの手をとる。
「私と一緒にエリック様に渡しに行きませんか」
なんか名前がごちゃごちゃ。
お次はティアレとオリビアでエリックの部屋へレッツゴー!です