皇子の内緒話
いきなりの第三者視点です。
「まったく。俺の妻ともあろう者が何故あいつなんだ」
ウェールズ王国第一王子であるエリック・ガーフィールドはイライラと部屋を歩き回っていた。
「エリック様、落ち着いてください」
執事であり唯一の親友であるティアレが手慣れた様子でエリックをいなす。しかし頭に血が上っているエリックは、ティアレに噛みつかんばかりの勢いで叫んだ。
「あいつはヴァンダルの伯爵の娘だぞ!?落ち着いてられるか!」
「しかしオリビア様との結婚は六年前から決まってた事では無いですか」
「違う!あれは口約束のはずだった!」
エリックの発した不可解な言葉に、ティアレは形の良い眉をひそめる。
「それは一体どういう……」
尻つぼみになったティアレの言葉にはっとしたエリックは、ティアレを見つめてしばしの間押し黙った。何かの攻防のように瞬きもせず固まった二人の沈黙を破ったのは、エリックの小さな咳払いだった。
「……いずれ話す。一つだけ言えるのは、俺とあいつの結婚の裏に黒幕がいるって事だ」
「……かしこまりました。では、私に出来る事があれば何なりと仰ってください」
「ありがとう。……下がってくれ」
考え込んだままティアレを振り返ろうともしないエリックに頭を下げ、ティアレは部屋を後にした。
こういう時のエリックの頭は恐ろしい程速く回る。状況自体よく把握していないお付きはただの邪魔でしかない。
エリックの性質をしっかり掴んでいるティアレは、エリックから漏らされた唯一の情報を元に部下に内線を入れた。
「ティアレだ。城の警備を強化しろ。……特にオリビア様の周りをだ」
『かしこまりました。国王様へのご報告は』
「いらない。出来る限り、内密にしろ」
『かしこまりました』
内線をきる。
エリックの言葉からたくさん想像する事は出来る。たとえば、オリビア様を狙う刺客がーーーいや、やめよう。
ティアレは首を振った。ボスが指令を出すまでは、無粋な憶測などしても仕方ないのだ。ティアレは凝り固まった肩をぐるぐる回して業務へと戻った。
今回の登場人物はエリック・ガーフィールドの執事、ティアレさんでしたー☆