令嬢と国王
初めて書きましたファンタジーラブストーリー!設定に一晩かかるって……何事……
彼女は辟易していた。
豪華なシャンデリアも、見事な彫刻が彫り込まれた白柱も、磨き上げられた大理石の床も、ーー目の前の玉座に座り込む男も、何もかもが彼女の目には色褪せて映る。
何度かここへ足を運んだ事があるけれど、豪華だけれど無表情すぎるこの城が大嫌いだった。
そうそう。ここにある物全て、ウェールズ国王陛下のご趣味だったわね。
玉座の前でうつむいていた彼女は、ゆっくりと顔をあげる。
豪奢な椅子に沈んでいた彼は、彼女の視線に気付いて笑った。
「どうしたんだねオリビア・エヴァレット。不景気な顔をしておるな」
オリビアと呼ばれた彼女は、軽く会釈をして微笑んだ。
「いいえ、緊張しているだけですわ、パトリック陛下」
涼し気で柔らかい声に、少しの拒絶が含まれている事に気付いたこの城の主、パトリック・ガーフィールドは、ほう、と目を細めた。
「見たところ、お主はこの城に来た事を後悔しているようだ」
黙ってパトリックをみつめ続けるオリビアに、パトリックは畳み掛けた。
「どうする。今ここで破談にしても私は構わないのだぞ」
詰るような、試すような声音にオリビアは眉を寄せる。
からかっているのね。
ここで私が破談にしたら、どれだけの人が死んでしまうかも分かっているでしょうに。
オリビア・エヴァレットは、商業や農作で栄えるヴァンディ王国の伯爵令嬢であった。
自然豊かで穏やかだった王国の平和が危うくなり始めたのは、まだオリビアが12歳で、平和が乱れる発端の隣国ウェールズ王国もまだ創国10年の頃だった。
このままでは戦争が始まる、戦族ウェールズが相手ではヴァンディは滅びてしまう、と懸念され始めた時、二つの国の平穏を守る為にウェールズがある提案をした。
「ヴァンディ王国第一伯爵家の長女、オリビア・エヴァレット嬢を要求し、それが叶った暁にはヴァンディ王国と良好な関係を結ぶ事を約束する」
これにはヴァンディ王国の若き国王アーノルドも驚いたが、この要求を呑んだ。それは仕方の無い事だと思うし、オリビアが彼であってもそうするだろうと思う。だからオリビアは素直にウェールズの長男に嫁いだ。
しかしやはり、ここは敵国なのだ。
そしてやはり、彼らにとってオリビアは敵なのだ。
苛立ちを抑える為にスカートを握りこむと、オリビアはしっかり顔をあげた。
「後悔なんてしてませんわ。ただ緊張しているだけなのです」
オリビアの回答に満足したらしいパトリックは、口の端を持ち上げると指を鳴らした。
「オリビア嬢に城内を案内しろ。あくまで大事に扱え」
「かしこまりました」
どこからともなく現れた女中達が、オリビアに退室を促す。
ため息をついて歩き出したオリビアの視界には、もう義父であるパトリック国王は映っていなかった。
ちなみに今回の登場人物
ヴァンディ王国第一伯爵令嬢、オリビア・エヴァレット
ウェールズ王国国王陛下、パトリック・ガーフィールド
でしたー☆