現代竹取物語
「乙巳の変」よりも前に書いたもので、あんまり面白くないです。
今から大体一年位前のこと、三人の高校生がいた。ある日、彼らが道路を歩いていると、ダンボールに一匹のネコが入れられて捨てられていた。可哀想だと思って、高校生の一人が拾い上げ、
「こいつ、可哀想だから俺の家で飼ってやるZE☆」
と言った。そいつは、三人の中で最もうるさくてチャラいヤツで、名を麗璽と言った。麗璽が飼うと言い出したが、もう一人の華奢な体つきのヤツが、
「やめときな。金もかかるし、家の中も荒らされるし。ろくなことなんてあるもんか」
と言った。こいつは崇弘といって、三人の中で最も小柄で、冷淡な性格をしていて周りから嫌われていた。そこで、三人の中のリーダー格が、
「おい崇弘、そんな言い方ぁねえだろう」
と言った。リーダー的存在のこの人の名は、将史と言った。将史は、人一倍力持ちだが優しいヤツで、いつも周りから頼りにされていた。すると、それに便乗し、
「そうそう、困っている人…じゃなかった、ネコを助けると、何か良いことがあるかもしれないZE☆」
と麗璽。
「ちっ、分かったよ。どうせ俺には関係ないし。どうなっても知らないよ」
崇弘が残念そうに言った。
三人は、麗璽の家を訪れた。麗璽はひとまずネコを自分の部屋に連れて行き、白いかごの中に入れた。其のネコはよく見ると小さく、薄汚れてはいたが、どことなく美しい、煌びやかな不思議な感じを漂わせていた。
「洗ってやったらどうだ」
と将史。麗璽は早速風呂場へもって行き、丁寧に洗ってやった。すると其のネコは銀色に近い白色の輝きを放ち、かごに入れたら分からなくなりそうだった。麗璽はネコに「煌麗」と名づけた。
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三ヶ月のうちに煌麗はすくすくと成長し、すっかり一人前…一ネコ前のネコになった。三ヶ月でこれほど成長するとは思えないくらいに大きくなっている。麗璽は、
「庭にある木と大きさを比べてみるZE☆」
とか言って、庭を見ると、なんと沢山の猫が群がっている。あまり気にしないようにして、煌麗を地に下ろすと、ネコは一斉に群がってきた。この猫たちを将史が追い払ったが、五匹のネコがしぶとく、庭にいつまでもとどまっている。すると麗璽が、
「A☆T☆CHI☆I☆KE!ここに居たいならこれをもってくるんDA☆」
といいながら、何か書いてある五枚の紙をばら撒いた。ネコたちは、狂いだしたように逃げていった。
ネコが去った後、将史は麗璽がばら撒いた紙を拾い上げ、読み上げた。「ツチノコ」「純金製のブレスレット」「三億円」「液晶テレビ」「屋敷」と、どれもいまいちな品。
「お前が欲しいものだろ」
つっこんだのは崇弘だった。
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三週間ほど経った頃、五匹のネコが戻ってきた。
一匹目のネコは、ツチノコを持ってきた。しかし、麗璽がそれをよく見ると、ツチノコではなくただのニシキヘビだった。第一、ツチノコとニシキヘビは全く違うはずなのに、どうしてよく見る必要があったのだろうか。
次のネコは、純金製のブレスレットを持ってきた。すると、ネコに大きな影が覆いかぶさった。それと同時に、「ゴォラァァァァ!!!!この泥棒ネコォォォォォ!!!!!」という轟音が鳴り響き、怒鳴った人が猫の尻尾をつかんでどこかへ言ってしまった。
三匹目の猫は、なにやら札束を取り出してきて、「ニャーニャーニャー」といった。なんと言っているかは分からなかったが麗璽は狂喜した。すると将史が一枚の札を広い、よく見て「にせ札じゃぁ」というと、麗璽はひどく落ち込んだ様子になってしまった。
四匹目のネコは、液晶テレビを持ってきた。麗璽は、今まで全部失敗だったので、あまり期待はしていなかった。やはり液晶テレビは本物ではなく、発泡スチロールで出来た偽物だった。麗璽もさすがに怒って、
「ンなモン作る技術あンならモノホン持って来いやゴゥラァァァ!!!」
と怒鳴ったので、ネコたちはびっくりして一目散に逃げ出した。麗璽も「屋敷」はどうせお化け屋敷かゴミ屋敷だろうなと思っていたので追いかけなかった。
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また三ヶ月ばかり経った頃、夜になると煌麗がおびえるようになった。麗璽がそれに気づいてから三日経った昼、いかにも金持ちそうなおばさんが、麗二の家を訪れた。用件は、麗璽にとっては凄絶なものだった。「お宅のネコちゃんが欲しいザマス」麗璽は「I☆YA☆DA☆NE」と断ったが、「まあまあそういわずに、三週間考えるザマス。もし、そちらがネコちゃんを渡さないとあらば、この土地を売りつけてやるザマス☆」そういい、マダムは帰ってしまった。
「絶対嫌DA!煌麗を渡すもんKA!」
「煌麗を渡すほうが妥当だろうけど、それは麗璽にとってもつらいだろうね」
「麗璽、よく考えるんじゃ。いずれにせよ、自分の後悔は自分で背負っていかねばならんのだから」
話し続ける三人。おびえる煌麗。彼らには、どうすることも出来なかった。
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あれから二週間が経ち、煌麗は次第に弱っていった。考える時間はあと少ししかないし、煌麗もくたくただ。まだ結論は出ていない。ネコを飼うことに反対だった崇弘も、必死に考えた。しかし、打開策は見出されない。彼らは今、広大な平野で猛獣どもに睨まれて動けないで居る、馬でしかなかった。
「俺たちは無力だ」
崇弘のその言葉が、みんなの心の中で彷徨う様にして、とどまった。“俺たちは無力だ”。
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いくら待ってもマダムは来なかった。麗璽たちは、煌麗を渡すつもりで居た。だが、マダムが来ないのなら、また煌麗との日常が取り戻せる。煌麗の体の状態がよくなればの話だが。
「あいつ、ばちが当たったんだ」
崇弘が言った。
煌麗は日に日に弱って行くばかりで、麗璽たちが進級して高校二年生になった夏、とうとう寝たきりになってしまった。そんな時、不幸にもあのマダムが来てしまったのだ。長い間病気になっていたらしい。麗璽たちは、「体調がよくないから」と言って拒むが、マダムは諦めない。
「優秀な医者がいればすぐに直るザマス」
「そんな簡単なことで済むか」
崇弘も反発する。しまいには、
「いい加減にしろよ!人のネコを何だと思ってんだ!さっさと帰れよこのクソババァ!」
と、将史が叫んで、見事追い返すことが出来た。
だが、マダムは諦めてはいなかった。次の日から毎日電話がかかってくる。電話がかかってくるようになってから十五日目、ちょうど麗璽の家にいた将史が先に電話に出て、マダムが用件を言いかけたとき、「しつこいんだよこの野郎!警察に通報してやる!」それだけ言って、電話を切った。それでもまだ、次の日からも電話はかかってくる。将史はもう耐えられなくなった。
八月二十日、将史は決心した。「麗璽、崇弘、これが、俺たち三人の最後の夏じゃ。今までありがとな」「何をする気なんだ」「コロシに行くんじゃないのKA☆」「そこまでする必要、ないだろ」三人の意見はまるでバラバラだ。そんな時、ふと庭を見たら、ひとつの死体が転がっている。煌麗だ。
煌麗は、庭で焼かれた。麗璽が、もう思い出すことのないようにと、火葬にしようと言い出したからだ。灰は、庭に肥料としてばら撒いた。
庭に、小さな穴が開いている。穴の中には、壺のようなものが入っていた。壺には、『不死薬仙丹』と書いてあり、中には丸薬のようなものが三つ入っていた。「煌麗は、あいつは、この薬を自分で飲まずに、俺たちに託そうとしたんだ」
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九月三日、神奈川県川崎市に、一人の女性の遺体が発見された。被害者は金田富美子(55)。遺体は血まみれの状態で発見され何者かが鋭利な刃物で刺し殺した疑いがある。その翌日、少年Mが『殺人をしました』と名乗り出た。
「これ、将史じゃないか」
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将史は戻ってこなかった。麗璽は、煌麗のことをなるべく思い出さないようにしていたが、一人のときはどうしても思い出してしまう。ニュースを見ていても、あまり気分のよいものはなかった。友達が犯罪者として報道されているのだから、仕方がない。
崇弘が、煌麗のところへ往った。麗璽は一人になった。同じ学校の中ではもう友がいない。家に帰っても煌麗はいない。麗璽も、みんなのところへ行ってしまおうと思った。でも、その勇気がなく、結局どうすることも出来なかった。十月に入り、将史の死刑が確定した。マダムの夫や子供まで殺したらしい。麗璽は絶望した。その次の日から、麗璽は不登校気味になった。
高校三年の九月、麗璽は長い長い現実の悪夢から醒めた。「麗」を「礼」に、「璽」を「慈」に換えて、学校に行くことにした。三つの魂を持って。
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礼慈の就職先が決まった。
煌麗はまだ、礼慈の心の中で、生き続けている。
[終]
設定資料
小学二年生の頃、彼らは出会った。友達想いで大きい体の将史。冷淡だが時々思いやりのある崇弘。明るく元気すぎる麗璽。三人は性格もバラバラで、まったく合わないように思えたが、一度話したらすっかり意気投合してしまった。
中学校は、崇弘だけ私立の学校へ行くことになった。だが、二年生になった頃には、すっかり落ちぶれて麗璽たちの学校へ転校してきた。高校も同じところへ入ろうと、三人は約束し、受験勉強もがんばった。嫌になることもあったが、約束を破るわけには行かない。
三人は高校受験に合格した。この頃から、麗璽は変わった。「~だZE☆」口調になり、時々東京の渋谷とかいう場所へ行き、女子高生をナンパしていた(全部失敗したが)。
煌麗は、毛の白いネコで、なんともいえない美しさを持っていた。名前は、今は亡き父、煌璽の『煌』と、麗璽の『麗』の字をとったものだ。煌麗は病気ですぐに死んでしまうのだが、その死骸にはまだ白色の輝きが残っていた。
煌麗が死んだ後は、麗璽は名を礼慈と改名した。そして、変な喋り方を直し、ナンパもしなくなった。煌麗は礼慈に大きな変化を与えたのである。礼慈の中で生き続けている煌麗の魂だけは、滅びることなくこれからも生き続けるであろう。ずっと、ずっと。
終わり。
最後まで読んでいただき、有難う御座いました。