すいませーん( ・o ・)ノ
駄作ですが、どうぞお楽しみください。
詰まってしまった。
考え始めたのは、まだ朝日も昇っていず月が西の空で輝いていた頃だった。
私はとあるマンションの2階に住んでいる。2階ならば火事が起こっても逃げられるだろうと、安直な考えで決めた結果だった。今は、どうせなら角部屋にすればよかったと思っている。その部屋からは、あたたかい月光に照らされた道路と街灯の青白い光を反射している道端が相まって幻想的な雰囲気を醸し出していた。少なくとも、私はそう思っていた。無心で案を練る私の顔は、さぞその場に相応しくないものだったろう。思いつめている人間の顔ほど、美しくないものはない、と私は考えていた。
いつまでも夜風に当たって道路を眺めていても仕方がないとばかりに、いつまでたっても案は浮かんでこない。仕方がない。こうしていても案が浮かぶ確証はないのだから動いた方が良いのかもしれない、という意味の分からないことを考え付いて私はその場所に行ったのだった。
道中は、なかなか厳しかった。見知らぬ土地を歩くものではない、ということがここで学べただけでも収穫だ、とかその時は考えていたのだ。もっと大いなる収穫が眼前に待ちわびているとは知らずに。
『 料理ほど、摩訶不思議なものはない。
そして、料理ほど簡単なものはない。 』
というのが、私の持論だった。
いつだって、私は料理に情熱を、いや人生を捧げてきた。すべては、トラウマから始まったがソレはすでに過去の話だ。
今では、料理によって悩まされることも、死ぬような思いをすることもない……はずだった。
私は、現在今をときめく料理かとして知られている、という時代もすでに過ぎ去って、売れていた時代に稼いだ金で店を買って経営している。オリジナルのレシピを創造していた若い時代は過ぎ、今日では自らが腕を振るうことも少なくなった。店のスタッフに自らの技を伝授するぐらいだ。最後に腕によりをかけたのは、母に最後の晩餐を作ったときだろうか。母はすでに胃が衰弱していて、私の振るった料理をこっそりあとで吐いていたことも今では懐かしい記憶として思い出せるほどには時は過ぎた。享年65だった。母が老いて、死んだようにまた私も老いていたのだ。
進化を止めた時、すでに私は料理人として失格だったのかもしれない。
しかし、私はあるときふと、作りたいと思ってしまったのだ。料理を。私の血肉が料理を求めている、そう感じたのだった。
進化をやめ、衰退の一途を辿っていた私に何作ものレシピを創造する力があったのか、と言われれば「否」としか言えない。私は、母の生前の胃のように衰弱していた。思いを溢れさして、捨て去るほどには。
その結果、衰弱した胃が耐えれるはずがなく、案に詰まってしまったわけだが。私は諦めなかった。人生を賭けていたのだ。ここで止めれば、生きている価値がないだろう?
常に前を向いてこそ、人間の真価が分かる、と私は思っていた。
老いとは恐ろしいものだ。
しかし、思いもまた恐ろしいものだ。
右手には煌煌と光る太陽がドンと構えている。老人の脚力はすぐにリタイヤしたが、老人の精神力ほど頑固なものはなかった。ついには、マンションから十数キロの位置にある市場までたどり着いてしまったのだ。かなりの時間は要したが、凄い事には変わりない。
8時という、市場がもっともにぎあう時間に私はそこにたどり着いた。エネルギーが溢れかえり、まるで私は自分が年老いた存在じゃないような錯覚を覚え、スタスタといつもならば気後れしてしまう人ごみの中を掻き分けていく。
露天を見ながら、進んでいくとあるモノが気になった。
魚だ。私は元々フランス料理が専門だが、好きな料理は魚料理だった。魚程魅力的なものはいない、と同僚達に語っていたほどだ。
思わず見惚れ、じっくりと生きのよい魚を凝視していると、いつの間にやら隣に立っていた私とは1回りどころか2,3回りありそうな大学生ぐらいの少女が店主に向かって口を開いた。
「すいませーん( ・o ・)ノ」
透き通った声で店主を呼び止める。
「トウヤクってありますか?ソレの卵巣とかもあれば嬉しいんですけど……」
聞こえてきたのは、『トウヤク』という聞きなれない単語。
魚の名だろうか。この私が知らない魚の名前があるとは、とショックを少し受けて茫然としていると朝の市場にぴったりな陽気な店主の声が脳に響いた。
そうだったのか。ソレならば、私も知ってる。
そうして、5日後私は筋肉痛になったわけだが、スランプは脱出した。
今では、料理人として誇れる気がしている。
「御免なさいね( ・o ・)ノ。トウヤクはありますかな?」
「シイラね。はい、いっちょーッ!!!」
この日から、たびたびこの市場の方向に夜中歩いている老人を見かけるようになったそうだ。
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