9ー3 2人の花嫁
9ー3 2人の花嫁
まだ昼間だというのに空は曇り、辺りは薄闇に包まれていた。
ライザとラザニエルさんを見つめて山の神は、うぉおん、という唸り声のようなものを上げる。
「花嫁が……2人?」
うん?
俺は、ラザニエルさんとライザが2人とも花嫁の衣装を身に付けているから山の神が戸惑っているのかと思ったがそれは違っていた。
神は、本能的に知っているのだ。
今、『聖女の心臓』を持っているのはライザだ。
でも。
本当の心臓の持ち主は、彼女ではなくラザニエルさんだ。
そこには、確かに彼の花嫁が2人いた。
ライザの両親は、魔王が封じられた『聖女の心臓』を手に入れそれを死んだ我が子の体に埋め込んだ。
ライザは、それをつい最近まで知らなかったのだという。
ただ。
自分の肉体の異常性には気付いていた。
普通の少女に比べるとずっと頑丈にできている自分の肉体にライザ自身も疑問を持っていた。
それでも。
両親が行ったことには思いもよらなかった。
人買いに売られる直前に婆さまから己の両親の罪をきかされたライザは、それをなかなか受け入れることができなかった。
それでも。
死ぬことは恐ろしかったし、生きていたかった。
だから。
人買いと共に山を離れた。
それでもいい、とライザは、思っていた。
彼女は、絶望していたのだ。
そんなライザの胸に少しの希望が芽生えたのは、ルーア君のせい。
山から彼女を追ってきた弟の存在がライザに生きることへの希望を抱かせていた。
しかし。
結局彼女は、死ぬことを受け入れることとなる。
それは、俺のせいだ。
俺が山の神の生け贄に彼女を差し出すことを伝えたから。
それは、ある意味、心臓を抉られるよりも恐ろしいことだったのかもしれない。
「花嫁……2人?」
まだ戸惑っている神の前に俺は進み出た。
山の神の……魔王の覇気に足が震えて。
全身からおかしな汗が流れ出る。
前に進もうとしても体が動かない。
喉が乾いて声が出なかった。
これが古い神の……魔王の気。
俺は、すっかり飲み込まれて萎縮していた。




