8ー10 生け贄
8ー10 生け贄
「ルーア!」
泣いているルーア君を抱き締めてライザも堪えきれずに涙を流す。
ひっしと抱き合って泣いている2人を見て俺は、短剣をそっと床に置いた。
「勘違いしないで。俺は、誰も殺さないし」
「ええっ?」
その場にいた全員が驚愕を隠せない。
俺は、はぁ、っとため息を漏らす。
頭が痛い。
俺は、軽い気持ちで領地視察に来たのになんで、こんなことになってるの?
まったく!
「でも!」
ライザが悲鳴のような言葉を発する。
「精霊様は、あたしの心臓を……あたしの中にある『聖女の心臓』を必要としているんじゃ?」
「そうだけど」
俺は、ちらっとラザニエルさんを見る。
ラザニエルさんは、蒼白で。
まるでそのまま消えてしまうんじゃないかというぐらいだし!
俺は、すぅっと空気を吸うと声を張った。
「ライザを山の神への生け贄とする!」
「……クロウズ君!?」
ラザニエルさんが信じられないというような表情で俺を見る。
俺は、続けた。
「次の『サク』の折りには、ライザを生け贄として山の神に捧げる。ライザの護衛は、精霊様と俺とアネッサでつとめるからそのつもりで」
その場にいた人々がどよめく。
俺は、みなに下がるように命じた。
静かになった小屋の中にラザニエルさんの声が響く。
「クロウズ君……生け贄って……」
「安心して、ラザニエルさん」
俺は、ラザニエルさんににかっと笑って見せる。
「俺を信じて!俺は、勇者みたいなことはしないから!」
「君のこと信じてる。信じてるけど!」
ラザニエルさんの声が震えている。
俺は、その場に残されていた短剣を拾うとラザニエルさんに手渡した。
「もしも俺がラザニエルさんを裏切るようなことがあれば、この短剣で俺を殺してもいいから」
「クロウズ君……」
ラザニエルさんが涙を飛ばすように瞬く。
「そんなこと……あたしにできるわけがないでしょ?」
「それでも」
俺は、短剣をラザニエルさんに押し付ける。
「それは、ラザニエルさんに。もしも俺が勇者のように道を過つことがあればその短剣で俺の命を奪って」




