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溺愛されたくてヒーローを拾ったつもりが、よく似たラスボスと間違えていたようです  作者: 木山花名美


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3/3

3 どっちか選べ

 

 まだ声変わりもしていないのに、ヒーローどころか魔王のように凄みがある声が、ジェナの背筋をゾクリと這う。


(彼は将来、間違いなく大物になるでしょうね。だけど……今は幼い子どもであり、弱った病人にすぎないわ)


 ジェナは「はいはい」とあしらい、水の入った吸い飲みを乾いた唇に近付ける。だが、少年は震える手でそれを振り払った。

 無茶をしたので傷が痛んだのだろう。うっと顔をしかめながらも懲りずに睨み続ける少年に、ジェナは言った。


「喉渇いているでしょう? 一晩中汗を掻いていたんだから、ちゃんと水分を取らないと」


 何も答えぬ少年に、ジェナはできるだけ優しく語り掛ける。


「お水を飲んで、栄養を摂って、お薬を飲まないと。今のままじゃ、人を殺すなんてとても無理よ?」

「黙れ……俺をどうするつもりだ」



『自分好みに育てたイケメンヒーローに溺愛されたいの♡ ついでにお妃様になって、一生お金に困らないセレブな生活がしたいの♡』

 ──とは言えない。

 ジェナは小説の美しい挿絵を思い出しながら、ヒロインと同じ慈愛の笑みを浮かべ、ヒロインと同じ慈悲深い台詞を口にした。


「一日も早く元気になってほしい。私にそのお手伝いをさせてほしい。……ただ、それだけです」


 くうっ! カンっっっペキ☆ どうよ!

 と内心興奮するジェナに、思いもよらぬ言葉が返ってくる。


「 “ 元気 ” に? ……ああそうだろう。無理やりにでも元気にしないと、売り飛ばせないからな」


(売り……飛ばす??)


「んなっ! そんなもったいないことする訳ないでしょう!? せっかく拾ったのに!」

「拾っただと? はっ! ほらな。そのいやらしい目に、全部魂胆が表れてるんだよ」

「いやらっ……て、私のどこが! 失礼ねっ!」

「どいつもこいつも、人を物みたいに扱いやがって。……いいぜ。お前、俺を元気にしてみろよ。元気になったら、真っ先にお前を殺してやる!」


 背後でカタンと響く音に、ジェナは喉まで出かかっていた文句を引っ込める。振り向けば、ダンが部屋の入口に立ち、厳しい顔でこちらを見つめていた。


「ジェナ、お前は朝飯の用意をしてこい。夕べの粥が鍋に入ってるから」

「でもっ、私まだこのコと話して……」

「いいから」


 祖父がこうして腕を組む時は、超頑固モードの時だ。ジェナは諦め、大人しく部屋を出て行った。



 静かになった部屋に、少年の舌打ちが響く。

 ダンはつかつかとベッドへ近寄ると、再び上半身を横たえようとする少年の胸ぐらを掴んだ。


「お前、今すぐここを出て行け。這えるくらいには回復しただろ」

「……ふざけんな。勝手に拾ったなら、完全に回復するまで責任持てよ」

「お前こそふざけるな。命の恩人に対して感謝するどころか、あんな暴言吐くヤツ。これ以上家に置いておく義理ねえだろ」

「命を助けろだなんて頼んでないだろ! 俺は別に、あのまま野垂れ死んだってよかったんだ!」


 するとダンは、少年の胸から手を離し、呆れたように笑った。


「死にたくないから逃げたんじゃないのか? ……お前、どっかの奴隷だろ?」


 図星なのか、少年の顔に恐怖が浮かんだのを、ダンは見逃さない。そして、さらに厳しい声で言った。


「無駄に綺麗な顔してるし、いろいろとつらい目に遭ってきたんだろう。だがな、この国では、王族かお貴族様でもない限り、みんな高い税金に喘ぎながらも必死で生きてるんだよ。お前のために使った薬草、薪、砂糖、包帯……全部儂らの貴重な財産だ。ジェナ……お前がさっき殺すとほざいた子どもだって、お前に負けねえくらい痩せていただろうが」


 無言でそっぽを向く少年に、ダンは続ける。


「生きたいならこの家で手当てを受けて、お前なりの恩を返せ。死にたいなら死にたいでも構わん。奴隷商に売り飛ばして、治療費を返してもらうがな」


 少年はそっぽを向いたまま何も答えない。だが、部屋に流れ込んできた甘い米の香りに、ごくりと喉を鳴らした。


「とりあえず朝飯を食え。んで脳みそ動かしてから、どっちか選べ。……但し、ジェナに危害を加えようとしてみろ。問答無用で奴隷商行きだからな」


 ダンはそう言い残し、部屋を後にした。



 ほかほかの白米粥と、ダンの脅しが効いたのか──

 あれから少年は、『殺す』とは言わなくなった。

 素直に手当てを受け、水も食事も摂る。元々の驚異的な回復力も手伝い、ジェナに拾われてから一週間後にはもう、ゆっくり歩けるまでになっていた。

 身体の傷も塞がり、徐々に痕も薄れていったが……なぜか顔の傷だけは、あれこれ試しても一向に治らなかった。


 今にも血が噴き出しそうな深い傷口を見ては顔をしかめるジェナに、少年は「別に痛くないから放っておけ」と言う。

 治療法を探るため、傷の原因を尋ねるも、覚えていないと面倒臭そうにあしらわれてしまった。


 一度、街のお医者さんに診てもらおう。そのためにはお金を稼がなきゃ! と、ジェナはダンに宣言した通り、これまでの三倍も薬草採りに励んだ。



 ひと月後──

 すっかり回復し、普通に動けるようになった少年は、進んで家の仕事を手伝った。

 腰に爆弾を抱えているダンの代わりに、薪を割ったり、重い薬草や薬を荷馬車に積んだり。やはり細身の割には腕力があるようで、ダンも感心していた。

 力仕事だけではない。彼は頭も良く、すぐに薬草の種類とそれが生えている場所を覚え、一人でも採りに行けるようになった。運動神経も非常に良いため、ジェナでは辿り着けない洞窟の奥深くや高い崖壁から、貴重な薬草をなんなく採ってくる。

『怪我したらどうするのよ! 危ないでしょう!』と何度も叱るジェナに対し、少年はふんとそっぽを向くばかりだった。


 ダンの言葉を理解したのか、誠実に恩を返していく少年。共同生活は充分すぎるほど上手くいっているにもかかわらず、ジェナは今の状況に不満を抱いていた。

 なぜなら──ジェナと少年の間には、溺愛どころか、恋の芽すら出る気配がなかったからだ。


 ダンには心を開き、懐き始めていた少年だが、ジェナに対してはどこか反抗的だった。

 殺意は感じなくなったものの、相変わらず態度は生意気だし、生意気な割には一線を引かれている気がする。


(あんなに世話して、こんなに優しくしているのに。恋の芽どころか、友情の種だって見当たらないわ。小説のヒーローとヒロインは、もうとっくにいい感じになっていたのに……『君が救ってくれた命で、一生君を守るよ♡』なんて言っちゃったりさ)


 自分とヒロインの何が違うのだろう。魔力がないせい? それとも、平民と伯爵令嬢という身分の違い? と考えたジェナは、ある根本的な原因に思い当たり、鏡の前へ飛んで行く。

 そこに映る自分の姿をまじまじと見て、不仲の原因を確信した。


(……顔だ)


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