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溺愛されたくてヒーローを拾ったつもりが、よく似たラスボスと間違えていたようです  作者: 木山花名美


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2 心を込めて育てましょう

 

「ぎゃあああぁ!!」


 小さな家の庭に断末魔の叫びが響き渡る。

 その叫びは、薬草を煮たドロドロの湯に、服ごと沈められた少年から発せられていた。


「ちょっと染みるかもしれないけど我慢してね! よく傷が治るし、身体の清浄効果もあるんだから!」

「止めろ! 出せ!!」

「ダメよ。最低でも十分は浸からないと。その間に髪も洗っちゃいましょうね~」

「出せ! 出さないと殺す!」

「こらっ! ヒーローがそんな乱暴な言葉使っちゃいけません! ……まあ、最初は仕方ないわよね。徐々にいいコに育ててあげましょ♡」


 身体を捩りながら涙目で威嚇する少年と、「麻酔薬を飲んでるんだから無理よ」と明るく言い放つジェナ。

 その光景を、ジェナの祖父ダンが青い顔で眺めていた。


「ああ……儂の五十年ものの貴重な薬草(コレクション)が……」

「大丈夫よじいちゃん! このコを育てたら、いつか元が取れるから!」


 ダンはため息を吐く。

 そして、ジェナが少年を背負って、家に帰って来た時のやり取りを思い出していた。



『元の場所に返してこい!』

『嫌! このコは私が拾ったんだもん! 私のヒーローだもん!』

『犬や猫じゃねえんだぞ! 儂ら二人だけだってやっとの暮らしなのに、人間の面倒なんて見られるか!』

『私のご飯を全部あげるから! がんばって今までの倍……ううん、三倍薬草を採ってくるから!』

『駄目だ! よりによって、そんないつ死ぬかわからねえ弱ってるのを!』

『命を救うための薬を作ってる人が、弱っている子どもを見捨てるの!? 最低!』

『うるせえ! 薬は人助けのために作ってるんじゃねえ! 金儲けのためだ! ……大して金にならねえけど』

『もっと最低! モブ中のモブのくせに……ふんだ、冷酷強欲じじい』

『なっ、なんだと!? 強欲はまだしも、冷酷とは聞き捨てならねえ!』

『じゃあ、じいちゃんのとっておきの薬草ちょうだい! 大事に隠し持ってるヤツ! それでこのコの命を救えば、絶っっっ対にいいことがあるんだから!』



 自分に似て頑固な孫娘に、ダンはこれ以上何を言っても無駄だろうと諦めた。それに、一度預かった命に責任を持たなければいけないことは、自分が一番よくわかっている。──かつて、劣悪な孤児院に預けられていた幼い孫娘を引き取り、苦しい生活の中で育てていく覚悟を決めたように。

 ダンは肩を竦めると、タオルと少年の着替えを用意するため、家の中に入っていった。



 地獄の薬草風呂から生還した少年は、ベッドの上にぐったりと横たわっている。目にはチリチリと殺意が燃えているが、もはやそれを実行に移す気力はない。


「しばらくは倦怠感で動けないでしょうけど、薬草が効いている証拠よ。身体が動くようになった頃には、だいぶ楽になっているはずだから。つらいでしょうけど、少し辛抱してね」


 そう言いながら、ジェナは少年の患部に包帯を巻いていく。

 続けて鎮痛薬入りの砂糖水を器用に飲ませると、少年は何か言いたげな唇を薄く開けたまま、すやすやと寝息を立て始めた。


「なんだ、寝ちまったか」


 部屋に入って来たダンは、貴重な白米粥の入った皿を机に置くと、ジェナの横に立った。

 ジェナは湯気の昇る皿を一瞥すると、少年に優しく布団を掛ける祖父に向かい合う。


「じいちゃん……さっきは酷いこと言ってごめんね。貴重な薬草(コレクション)も使わせてくれてありがとう」

「おう。百倍にして返せよ」

「……じいちゃんは冷酷なんかじゃないよ。強欲だけどね」


 ダンはハハッと笑い、ジェナの頭にぽんと手を置いた。


「お前も強欲だろ? 儂にそっくりなんだから」

「うん! いつか金持ちになって、じいちゃんと世界一周旅行に行って、美味しいもの食べまくる! 絶対に恩返しするからね」

「期待してるぜ。儂が生きているうちにな」

「任せて! もしかしたら、このコがお城に連れて行ってくれるかもしれないわよ?」


 ダンは少年の寝顔をチラリと見て言う。


「確かに、王子様みたいに綺麗な顔してるな」

「でしょでしょ?」

「ああ。この傷も綺麗に治るといいが」


 ダンの言葉に、ジェナは不安になる。なぜなら、少年の頬から顎にかけてのその傷が、一番深く治りにくいだろうと感じていたからだ。


(こんな傷、小説には書かれていなかった気がするけど……ヒロインが治癒魔法でパパッと治したからかな。ここでは薬でしか手当てできないし、ヒーローの大事な顔に痕が残っちゃったらどうしよう)


 自分が拾ったせいで……と、ここへきてやっと罪悪感を覚え始めたジェナだが、もう後戻りはできない。前世の溺愛願望だけでなく、今世の強欲な夢まで、この少年に託してしまったのだから。

 魔力も金もないが、せめてヒロインのように、心を込めて育てようと覚悟を決めたのだった。



 翌朝──

 一晩中ベッドの横で少年を監視していたジェナは、凄まじい殺気に、うとうとしかけていた目を一瞬で覚ました。

 薬草風呂に浸かってからまだ半日も経っていないというのに、少年は燃えるような目でジェナを射貫きながら、もう上半身を起こそうと奮闘していた。


(すごい!! あれで煮込んだら、普通は一週間は起き上がれないというのに。さすが神聖力を秘めたヒーロー。回復が早いわ)


 驚きつつも感心するジェナに向かい、少年はまたもやヒーローらしからぬ言葉を放った。


「……殺す」


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