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第九話 注意事項

本作は、日常の違和感がじわじわ積み重なるタイプのホラーです。

俺は、人の嘘に気づくのが得意だ。

……昔から、そうだった。


嘘をつくと、表情や声のトーン、体の動きなどに必ず出る。

どれだけ取り繕っても、どこかがわずかに歪む。


完璧に騙すことなんて、不可能だ。


いや。

嘘に気づくのが得意というよりは、勘が鋭いのだろう。

トランプでもあまり負けた記憶がない。


――昨日までは。


その時、

「ジリリリ!」

目覚まし時計の音で目を覚ました。


俺は、昨日のことを思い出し、すぐに翔太に電話をした。


コールは、二回で繋がった。


「もしもし、翔太」


「純? どうしたの、朝から」


俺は一瞬だけ言葉を選んだ。


「......ちゃんと、心と一緒にいろよ」


「うん、分かってる」


「じゃあ、頼んだぞ」

「昨日も言ったが、否定はするなよ......」


「......分かった」


その一言で、通話はあっさり終わった。


いつも通りの声だった。


「……俺もやらないと」


小さく呟き、ベッドから立ち上がる。


カーテンを開けると、朝の光が差し込んだ。


普通の朝だ。


車の音。

遠くで鳴くカラス。

向かいの家の洗濯物。


何もおかしくない。


「まずは、これまでのことを紙に書くか」


俺は机に向かい、ノートを開いた。


ペン先が、わずかに震えている。


深呼吸をひとつ。


そして、上から順番に書き出す。


・孝也の失踪

・信也のお守り

・交差点の事故

・心の目


書き並べると、ただの出来事の羅列だ。


だが。


「……繋がってる」


無意識にそう呟いていた。


偶然にしては、重なりすぎている。


視線が、最後に書いた“心の目”で止まる。


あの時。


笑っていたのに、

目だけが笑っていなかった。


その瞬間。


背筋が、ぞわりとした。


――俺は、何に気づきかけている?


「お守りのことをもっと思い出すんだ」


俺は目を閉じ、頭をフル回転させた。


断片が、ゆっくり浮かび上がる。


黒くなっていくこと。

心がお守りを持ってから、おかしくなったこと。

中に、何か入っていたこと。

燃やしたとき、青黒い火が上がったこと。


普通じゃない。


紙にその言葉を書いた瞬間、

あのときの匂いまで蘇る。


焦げた布の匂い。

それとは違う、鉄のような、湿った匂い。


「……中身」


俺は小さく呟いた。


ただの御守りなら、

燃やせば灰になる。


なのに。


あれは、燃え方が“おかしかった”。


俺はノートに丸をつける。


――お守りが起点。


「……信也」


自然と名前が出た。


「信也はそのお守りをどうやって......」


あんなものを、どこで手に入れた?


市販品じゃない。

神社で売っているようなものでもない。


――あんなもの、売っているはずがない。


一応、そういうものがないか調べることにした。


スマホを手に取り、検索窓に打ち込む。


“黒い御守り 中身入り”

“燃やすと青い火 御守り”

“呪い 御守り 作り方”


だが――


出てくるのは、オカルトまとめサイトや創作話ばかりだった。


似たような体験談はある。


黒く変色する御守り。

燃やすと色が変わる炎。


だがどれも曖昧で、決定打はない。


「……違う」


あれは、もっと生々しかった。


もっと――現実だった。


スクロールする指が止まる。


気になるワードがあった。


“身代わり 作り方 本物”


俺は、その文字をじっと見つめた。


「......なんだこれ」


恐る恐るクリックした。


画面が切り替わる。


古い掲示板のようなページだった。


ただ、淡々と文字が並んでいる。


■導きお守りの作り方(本物)

※自己責任


① 強い感情を持つ対象を決める

② 布袋を用意する

③ 自分の血で紙に呪う対象の名前を書く

④ 対象の体の一部をその紙で包む

⑤布の中に入れ縫う

⑥ 名前を三度、声に出す


さらに下へ。


※完成後、24時間以内に対象に渡さなければならない

※身代わりが黒く変色し、対象がおかしくなれば成功

※焼却時、青黒い炎が出れば完全


背中に冷たい汗が伝う。


「……出来すぎている」


偶然で片付けるには、出来すぎている。


俺は、ゆっくりと顔を上げた。


信也は――


「お守りを渡すことで心を呪ったのか......?」


喉が、乾く。


俺は、さらにスクロールした。


助ける方法を見つけたかった。


何かあるはずだ。


スクロールしていく。


その先に、小さな見出しがあった。


※注意事項


・お守りを渡せなかった場合、自分に呪いがかかってしまう

・対象者がお守りを手放した場合、呪いの効果は薄くなっていく

・どういうふうに呪われるかは分からない

・対象者以外がそのお守りに触れた場合、何かしらの影響を受ける


「……」


呼吸が浅くなる。


渡せなかった場合、自分に呪いがかかる。


信也は、確実に“渡した”。


“手放した場合、効果は薄くなる”。


「つまり、心からお守りを奪えば助かるのか」


だが次の瞬間、別の一文が頭をよぎる。


――対象者以外が触れた場合、影響を受ける。


「でも無理やり奪っても、触れたら......」


俺は額を押さえた。


素手では無理だ。


袋越しなら?

火ばさみ?

燃やす?


「……待て」


もう一度、文章を読み返す。


“効果は薄くなる”。


消える、とは書いていない。


薄くなる。


完全に消す方法は、どこにも書いていない。


胸の奥が冷える。


「じゃあ、これは……終わらないのか?」


その瞬間。


スマホが震えた。


画面には、翔太。


俺はすぐに出た。


「純」


声が、震えている。


「心がさ……」


一瞬、息を呑む音。


「この前よりもやばいことになってる......」


「どういうことだ?」


「ぼーっとしてるかと思ったら、急に笑い出したりするんだ......」


笑い声が、電話越しにかすかに混じる。


翔太は、完全に動揺していた。


「落ち着け! 今、そっちに向かうから!」


通話を切る。


鼓動が速い。


俺は机の引き出しを開け、思いつく限りの物をバッグに詰め込んだ。


軍手。

ビニール袋。

ライター。

塩。


正しいかどうかは分からない。


だが、何もしないよりはましだ。


玄関を飛び出し、自転車にまたがる。


ペダルを強く踏み込む。


お昼で、人が多い。


自転車を押しながら、信号の前で立ち止まる。


こういう時に限って、赤だ。


まるで行く手を阻むように。


イライラしながら、信号が変わるのを待つ。


背後から人が増えていく。


横断歩道の白線が、やけに遠く感じる。


「くそ、ついてない......」

小さく呟いた。


ふと、向こう側を見る。


対向の信号待ちの人混み。


スーツ姿の男。

スマホを見ている学生。

ベビーカーを押す母親。


その中に。


一瞬だけ。


信也が、笑っている姿が見えた気がした。


目が合った気がした。

第八話まで読んでいただきありがとうございます!


皆さん“注意事項”は、ちゃんと読んだほうがいいですよ。

次回、さらに動きます。


次回もよろしくお願いします!

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