表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
7/11

第七話 本当にお守りなら

本作は、日常の違和感がじわじわ積み重なるタイプのホラーです。

「美味しすぎて、一回一回味わいすぎちゃってさ」

「時間見るの忘れてたよ」

心は笑いながら言った。


(......そんな感じだったか?)


俺には、

とてもそうは見えなかった。


「そっか。美味いもんな」


そう言いながらも、

心のポケットに入ったままの手が、妙に気になった。


「心、ずっとお守り握ってるのか?」

俺は、ストレートに聞いた。


「うん。安心するからね」

心は、笑って答えた。


その指は、ぎゅっと強く布を握っていた。


「あれ、純どこ見てるの?」

心は不思議そうに言う。


俺も反射的に純を見る。


純は、俺たちを見ていなかった。

その目は、心のポケットを睨んでいた。


「......心、お守り見せてくれないか?」

純は低い声で口を開いた。


「え、なんで?」

突然言われ、心はポカンとする。


「どういう感じだったか気になってな」


数秒、沈黙が落ちた。


心はポケットの中の手を、わずかに動かした。


それから、笑った。


「......いいよ!」


心はそう言って、ポケットからお守りを引き抜いた。


赤い布の、小さなそれ。


――けど。


「あれ?」


俺は思わず声を漏らした。


前に見たときより、

少しだけ黒ずんでいる気がした。


「こんな色だったっけ」


俺の独り言に、心は首をかしげる。


「え? 変わってないよ?」


そう言って笑う。


でも。


黒い染みは、

ゆっくりと、布の中央から滲んでいた。


じわ、と。


まるで水を吸ったみたいに。


「……」


純が、何かを言いかけてやめる。


そのときだった。


黒い部分が、

ほんの一瞬――


脈打った気がした。


「……」


純の喉が、わずかに鳴る。


そのとき。


ガラッ。


教室のドアが、勢いよく開いた。


「悪い、遅れた!」


信也だった。


俺は思わず振り向く。


心も、お守りを握ったまま顔を上げる。


そしてすぐポケットに戻した。


信也は席に座った。


「今日は何やるの?」


いつも通りだった。


純は少しだけ視線を落とし、それ以上は何も言わない。


「カードゲームをやろう!」


俺が空気を変えるように言うと、


「よし、勝つぞ!」


心は明るく答えた。


ポケットに手を入れたまま。



カードゲームが始まった。


心はようやくポケットから手を出した。


信也がシャッフルし、

純は無言でカードを並べる。


「よし、勝負な」


俺は無理やり明るく言った。


心は笑った。



数十分後、

勝ったのは心だった。


「やった!」


「次は絶対勝つ!」


「いや、俺が勝つ」


「......」


それから何ゲームか続けた。


勝ったり負けたり、

いつもと変わらないやり取りがあった。


信也が笑い、

俺が文句を言い、

純は淡々とカードを切る。


心も笑っていた。


気づけば、外はすっかり暗くなっていた。


「そろそろ帰るか!」


信也が立ち上がる。


椅子が引きずられる音が、やけに大きく響いた。


俺たちは荷物をまとめる。


心は、再びポケットに手を入れた。


教室を出ると、廊下は静まり返っている。


電気の消えた窓に、

俺たちの影が映った。


その中で。


一つだけ、

心の影の腕が――


少しだけ、不自然に見えた。


校門を出て、解散した。


「じゃあな!」


信也は軽く手を上げ、心も笑って去っていく。


心の手は、まだポケットの中だった。


俺と純は、同じ方向だった。


しばらく無言で歩く。


いつもと違うルートだったが、あまり気にしなかった。


街灯がぽつぽつと灯り始めていた。


「なあ」


純が、前を見たまま言う。


「今日の、見ただろ」


「……黒いやつか?」


俺が小声で返すと、


純はわずかに頷いた。


そして、足を止める。



視線の先は――


あの、二時の事故があった交差点。


「ちょっと行く」


「は?」


俺の声は、思ったより情けなかった。


純は、もう歩き出していた。


この時気づいた。


いつもと違うルートで帰っていた理由。


最初から――

この交差点に来るつもりだったんだ。


「純、なんでまた交差点に?」


俺は、後を追いながら聞いた。


「......ちょっと探し物があってな」


淡々とした声だった。


「落ちてるはずなんだ」


「何が?」


純は答えず、道路の端を見つめている。


しゃがみ込み、視線を一点に落とした。


「……あった」


「え?」


俺も近づく。


街灯の光が、アスファルトを照らしている。


縁石の影に――


黒い布が見えた。


小さく折り重なるそれは、

どこか見覚えのある形をしていた。


胸の奥が、ざわつく。


「……お守り、か?」


俺は、しゃがみ込んだ。


指先が、ゆっくりと伸びる。


そのとき。


「触るな」


純の声は、いつもより低かった。


俺は思わず手を引っ込める。


「……ただの布だろ?」


そう言いながらも、視線は黒いそれから離れない。


街灯の光が当たるたび、

布の表面が、わずかに光を吸い込むように見えた。


「見ろ」


純が顎で示す。


俺は目を凝らす。


黒い布の端。


アスファルトに、うっすらと――


黒い染みが、滲んでいた。


「……え」


まるで、そこから広がったみたいに。


俺の脳裏に、心のポケットがよぎる。


「偶然、だよな?」


言葉に出した瞬間、自分で分かった。


偶然であってほしいだけだと。


純は、ゆっくり息を吐く。


「持ってるやつと、同じだ」


その一言で、背筋が冷えた。


信号が赤に変わる。


交差点に、車は一台もいない。


静まり返った道路の真ん中で、


黒い布だけが、そこにあった。


「......たまたまだろ」

俺は、少し震えながら言った。


認めたくなかった。


純は、足元に落ちていた細い枝を拾った。


そして、黒い布をそっとつついた。


「おい、何やってるんだよ!」

思わず声が大きくなる。


「試したのさ」


「何を?」


純は、枝先をじっと見つめた。


「枝に黒いシミがつくかどうか」


俺は息を止めた。


「……ついてるか?」


自分でも分からない声だった。


純は何も言わない。


街灯の下へ枝をかざす。


その瞬間、俺の喉がひりついた。


枝の先は――


何も変わっていなかった。


「......なんだ、何もついてないじゃん」


俺は、ようやく息を吐いた。


胸の奥に溜まっていたものが、少しだけ軽くなる。


「......なるほどな」

純は、小さく、低い声で言った。


「え、何か分かったの?」


数秒間、沈黙が落ちる。


「恐らく、ここにあるのはもう危険ではない」


「どういうこと?」


純は黒い布から目を離さないまま、続けた。


「もう効果がないということだ」


「効果って……お守りだろ?」


俺の言葉に、純はわずかに眉を動かす。


「心は、あのお守りをどうやって入手したって言ってた?」


純は、鋭い目で聞いてきた。


「信也にもらったって言ってたけど......」


俺は答えながら、胸の奥がざわつくのを感じた。


「信也は、なんでそのお守りを持っていた……」


純の声は、独り言みたいに低い。


「さあ……神社とかじゃないのか?」


純は少し考えてから言った。


「今日、教室に信也が入ってきた時の心を見たか?」


「いや、見てないけど」


俺は首を傾げる。


純は、ほんのわずかに視線を逸らしてから言った。


「反射的にお守りをポケットにしまったんだ」


「……え?」


「さっきまで、ずっと握ってた」


確かに。


安心するから、と言っていた。


あれだけ大事そうにしていたのに。


「信也が来た瞬間だ」


純の言葉が、妙にゆっくり耳に入る。


交差点の空気が、急に重くなった気がした。


「……見られたくなかったってことか?」


「あるいは」


純は、黒い布に目を落とす。


「見せたくなかった」


その言い方に、ぞくりとする。


「どう違うんだよ」


「見られたくないのは、隠している側だ」


「見せたくないのは――」


純はそこで言葉を切る。


信号が青に変わる。


「相手に、知られたくない側だ」


俺は意味を理解するのに、数秒かかった。


「……信也に?」


純は答えない。


だが、その沈黙が答えみたいだった。


俺はもう一度、黒い布を見る。


「お守りなら隠す理由なんてないはずなのに......」


自分で言いながら、声がかすれた。


「本当にお守りなら......な」


純は、静かに言った。

ここまで読んでいただき、ありがとうございます!


皆さんは、このお守りどう感じましたか?

味方になってくれるもの?

それとも......


次回は、どうなるのか!?


よければ続きを読んでください!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ