第四話 視線の先
本作は、日常の違和感がじわじわ積み重なるタイプのホラーです。
「ふぁ~」
朝になり、目が覚めた。
洗面所に行き、顔を洗う。
昨日の記憶が蘇ってきた。
「あぁ!」
「思い出したくない!」
鏡を見ると顔が赤かった。
自分のあまりの情けなさに、恥ずかしさが止まらない。
「あいつらと顔合わせたくねぇな」
「でも俺が行かないと話にならないよな」
そんなことをつぶやきながら、家を出た。
「少なくとも、サークルの時間までは会いませんように......」
「特に......孝也には」
俺は、祈りながら大学へと向かった。
大学に着いた。
俺は、速足で最初の講義場所へ向かう。
「ふぅ......無事に着いた」
安心し、息を吐いた。
次の瞬間、声をかけられた。
「どうしたの?」
俺は飛び跳ねるように驚いた。
「うわぁ!」
「あはは、驚きすぎでしょ」
声の主は、関野 真里。
この時間の講義が一緒で、いつの間にか仲良くなっていた女の子だ。
「朝から、疲れた顔しちゃってどうしたの?」
「いや、昨日いろいろあって......」
「何があったの?」
俺は、真里の興味しんしんな目に、つい負けてしまった。
結局、昨日のことを話すことにした。
「......クスッ」
「あははははは!」
真里は、爆笑した。
その目には、涙が浮かんでいた。
「そんなに笑うなよ!」
俺は、熱くなった顔を隠すように、そっと机に伏せた。
「ごめんごめん」
「だって、ずっと勘違いしてたなんて」
真里は、目元を拭いながら笑った。
俺が言い返そうとしたその時、チャイムが鳴った。
授業が始まった。
だが、集中できず、頭の中は昨日のことばかり。
考えた結果、ある作戦を思いついた。
「とびっきり怖い動画を見つけて、孝也を驚かせてやろう」
「昨日のお返しだ」
俺は、思わずニヤリと笑みを浮かべながら授業を受けた。
昼休み。
俺はご飯を食べながら、怖い動画を調べていた。
「うーん......これは微妙だな」
「もっと怖いやつがいいんだけど......」
次々と動画をチェックしていると、突然声が飛んできた。
「なにやってるの!」
急に声をかけられた。
俺は飛び跳ねるように驚いた。
「うわぁ!」
「驚きすぎ......」
振り向くと、そこにいたのは心だった。
(さっきもこの感じだったな......)
「で、真剣に何見てたの?」
「......怖い動画」
「珍しいね、何かあった?」
「孝也に仕返ししようと思って......」
その言葉に、心はぽかんとした顔をした。
「何の仕返し?」
俺は、勘違いして恥ずかしかったこと、恥をかかせられたから仕返ししたいということを話した。
「なるほどね......」
「怖い動画を見せるよりも、びっくりする動画を見せたほうが効果あるんじゃない?」
「びっくりする動画?」
俺は、とっさに聞き返した。
「怖い動画はじわじわ来るけど、びっくりする動画はいきなり来るじゃん」
「なるほど......」
「心構えする隙を与えないようにするってことか」
心は笑顔で言った。
「そういうこと!」
「よし、一緒に探してくれよ!」
「いいよ!」
俺たちは昼休みを、びっくり動画探しに費やした。
午後の授業は、びっくり動画を早く見せたい気持ちが強すぎて、
逆に時間が長く感じた。
キーンコーンカーンコーン
ついに授業が終わった。
俺はすぐに立ち上がり、サークルの教室へ向かう。
「今日からは、ちゃんと心霊系やらないとな」
昨日あんなことを言った以上、何もやらないわけにはいかない。
俺は席に座り、何をやるか計画を立て始めた。
黙々と計画をねっていると、ドアが勢いよく開いた。
「今日も元気な俺が来たぜー!」
信也が、いつもの調子で入ってきた。
「翔太、おまたせ」
心も続いて入ってくる。相変わらず落ち着いた声だ。
俺は顔を上げた。
「お前ら、いいタイミングで来たな」
「今日の計画を立ててたとこだ」
俺は、二人に今日の内容を説明した。
信也の目が一気に輝く。
「おーめっちゃいいじゃん!」
「これぞ、心霊サークルだな!」
「じゃあ今日は、ゲームしたりはしない感じ?」
心は、笑顔で聞いてくる。
「あぁ、元々ホラー系をやるサークルだからな」
すると信也が、ニヤッと笑った。
「それを’’勘違い’’でホラーやろうとしなかったのは、どこの誰だっけ?」
「う、うるせぇ!」
「あれは、孝也が悪い!」
昨日のことを思い出し、俺は思わず声を荒げた。
顔がまた、じわっと熱くなる。
その時、再びドアが開いた。
「おまたせ」
純が、いつも通り無表情のまま入ってきた。
信也が、すぐに駆け寄る。
「おお!純!」
「今日は、ホラー系だってよ!」
「おお、そうか」
純は一瞬だけ俺を見た。
「本当の心霊サークルの始まりだな」
純の表情は、あまり変わらなかった。
「あとは孝也が来るのを待つだけだな」
「あぁ」
「翔太、早く見せたくてたまらないんでしょ?」
心と翔太の会話を聞いて、信也はポカンとした表情をした。
「何の話だよ?」
「びっくり動画」
「なんで?」
「昨日、孝也に一本取られたからさ。仕返しだって」
心が、くすっと笑った。
「おい、それ言うなって!」
俺は思わず声を張り上げた。
その瞬間、教室に笑い声が広がった。
準備が整った。
でも孝也はなかなか来ない。
「あいつ、来ないな......」
俺は小さくため息をついた。
「あいつ昨日あんなに楽しそうだったのにな!」
信也が笑いながら言う。
「何かあったのかな......」
心は、心配そうに呟いた。
「......」
純は、相変わらず無言だ。
「なんだよ、せっかく準備したのに」
「まぁ、仕返しは明日でもいいじゃん」
「今日がよかったんだけどな......」
俺は、肩を落とした。
「とりあえず、連絡してみるわ!」
信也は、スマホを取り出し孝也に電話した。
「......出ないや」
「趣味に没頭して気づいてないんじゃね?」
信也は、いつもの調子で笑った。
純が口を開いた。
「信也、お前あいつの家知ってるんだろ?」
「この後、様子を見に行ってこいよ」
「おお!それはいいアイデアだ!」
「任せとけ!」
信也は、自信満々に胸を叩いた。
俺は、きりかえてサークルを始めようと思った。
「今日はこれをやろうと思う」
そう言うと、カードを取り出す。
「これ何?」
心が不思議そうに首をかしげた。
「’’殺人ゲーム’’ってやつだ」
「カードには、凶器や場所、役割なんかが書いてある」
「......犯人を当てる推理ゲームってことか」
純が淡々と言った。
「今のでよく分かったな!?」
信也が思わずツッコむ。
「あんまり怖くないやつだね」
心がくすっと笑った。
「ホラー系ではあるだろ?」
俺は、すこしムッとする。
「いいから、やるぞ」
五回ほどやった。
俺は、犯人を当てることはほとんどできなかった。
だが、自分が犯人の時だけは、必ず見抜かれた。
……推理が苦手なのかもしれない。
「すげー、さすが純だな」
「ほぼ勝ってるじゃん!」
信也は驚きながら言った。
「まぁ、こういうのは自信あってな」
「人のことよく見てるもんね......」
心は、少し引き気味に呟いた。
純は信也を見て言った。
「信也は、ずっと表情変えないから当てれなかった」
純が珍しく悔しそうな表情を浮かべた。
その瞬間——
信也の顔から、笑みが消えた。
「次は頑張れよ」
低いトーンだった。
今まで聞いたことのない声。
その目は、笑っていなかった。
……いや、違う。
何も映していないように見えた。
俺はビクッとした。
信也が、真顔で。
しかもこんな声で話すなんて、見たことがなかったから——。
少しの沈黙が流れた。
心が、恐る恐る信也を見た。
「し、信也......?」
次の瞬間——
「ヒヒ、ビビった!?」
信也は満面の笑みを浮かべた。
「純のマネをしてみたんだ!」
「どう、似てた?」
俺は、深く息を吐いた。
「なんだ、そういうことか」
「お前がやると普通に怖いわ」
「あはは! そうかそうか!」
「笑いごとじゃないよ......」
「少し鳥肌立ったじゃん......」
心が、信也を睨んだ。
「そんな睨むなよ~」
ふと、信也は時計を見る。
「あ、俺そろそろ帰るわ」
「孝也の様子、見に行かないとだしな!」
信也は、手を振って教室を出て行った。
ドアが閉まる音が、やけに大きく響いた。
「まったく、急にマネとかするなよって思うよな?」
俺は、そう言いながら純を見た。
——見た瞬間、
言葉が止まった。
純は、目を大きく開いたまま、
瞬きひとつせず、
信也が出て行ったドアを
じっと、見つめていた。
まるで――
何かを感じ取っているかのように。
「……純?」
俺が声をかけると、
純は、ゆっくりと瞬きをした。
「……いや」
短く、それだけ言った。
ここまで読んでいただき、ありがとうございます!
四話目で、違和感があったの気づきましたか?
次回は、もっと面白い展開になると思います。
よければ続きを読んでください!




