第2話:予期せぬ事態(パート1)
横転したトラックから黒い煙が立ちのぼり、その傍らには二つの体が横たわっていた。
「一体何が起きてんだよ、クソッ!」
目の前の光景にtanenterは愕然とした。その時、頭の中に奇妙な音が響く。
キィィィィィン!!!!!
呼吸が乱れ、夢で見たあの壊滅した街の光景が現実の景色に重なり始める。
「くっ……! なんでこんなに頭が痛えんだ」
俺は頭を抱え込んだ。事故現場の近くに倒れている人影が、夢の中で見たあの死体――子供を抱いたあの女性と重なる。
「落ち着け……あれは現実じゃない。いいか、自分……まずは目の前のことに集中しろ」
呼吸を整え、脳裏にこびりつくイメージを振り払った。頭から手を離し、目を開ける。重なっていた死体の幻影は消え、頭痛も少しずつ和らいでいった。
「そうだ! 警察と救急に連絡しなきゃ!」
俺は急いでズボンのポケットからスマートフォンを取り出した。
「うっ……」
番号を打ち込もうとしたその時、現場に倒れていた老女の声が聞こえた。目を向けると、彼女は薄らと目を開け、わずかに体を動かしていた。
「生きてる! 今行きます!」
俺は老女のもとへ駆け寄るため、事故現場の車道へと飛び出した。
「エミリー……」
老女は虫の息で誰かの名前を呼んでいた。tanenterが彼女のそばにたどり着く。
「お婆さん! しっかりしてください!」
「エミリー……」
「大丈夫です。今すぐ安全な場所へ運びますから」
俺が彼女を抱きかかえようとすると、彼女の手は少し離れた場所に倒れている少女を指し示した。
「エミリー……私の孫娘……。あの子を先に……助けて……お願いだから……」
彼女の瞳には、自分よりも孫を案じる強い想いが宿っていた。
「……はぁ、分かりました。ちょっと待っててください」
俺は一旦彼女を横たえ、先に孫娘のもとへ走った。
少女を抱き上げ、歩道まで運ぶ。彼女を寝かせた後、すぐに容体を確認した。
「傷を確認しないとな」
幸い目立った外傷は少なく、多くは衝撃による打撲のようだった。だが念のため全体を確認する。服を少しめくって傷がないかチェックすると、数カ所に痣はあるものの、大きな出血はない。少しだけ安堵して、服を元に戻した。
「よし、ひどい怪我はないな」
手首で脈を測る。脈拍は正常だ。首筋にも手を当てたが、しっかりとした鼓動が伝わってきた。俺は胸をなでおろし、再び老女のもとへ向かった。
老女は不安そうな顔で、じっと孫娘の方を見つめていた。俺は彼女を抱き上げ、孫娘と同じ歩道へと運んだ。
「いいですか、お婆さん。良いニュースと悪いニュースがあります。どっちから聞きたいですか?」
俺の言葉に、彼女の顔がさっと青ざめた。
「孫娘に何があったの!? あの子は大丈夫なの? 教えてちょうだい、坊や!」
「まあ落ち着いて。良いニュースと悪いニュース、どっちがいいですか?」
「……じゃあ、良いニュースを」
「了解。良いニュースは、孫娘さんは助かったってことです。打撲と擦り傷程度で済みました」
それを聞き、老女の顔に喜びと安堵の色が広がった。
「それで……悪いニュースは?」
まだ何か恐ろしいことが残っているのかと、彼女は不安げに尋ねた。
「まず、あんたの両足が折れてること。それから、俺が早く家に帰りたがってることだ」
老女はニュースの内容を聞いて、呆れたような、それでいてさほど驚いていないような表情を浮かべた。二つ目の理由はともかくとして。
「私の足はもう2年前から不自由なのよ。動かなくたって不思議じゃないわ」
「マジかよ!?」
tanenterは少しがっかりしたような、拍子抜けしたような顔をして立ち上がり、スマホを手にした。
「じゃあ、とりあえず救急車を呼びます。あんたは……そこで大人しく寝ててください」
○
― キンの視点 ―
もう8時10分だ。どうしてtanenterは戻ってこないんだ?
俺は校舎の下で彼の帰りを待っていたが、もう10分以上経っている。心配でたまらない。今朝会った時から、あいつはどこか変だった。まるで別人みたいに、俺の名前さえ忘れていた。その時、ふとある考えが頭をよぎった。
(まさか、あいつが言ってた夢と関係があるのか?)
現実味のない話だったが、もしあれが記憶を失っている原因だとしたら。
もしかすると、あの夢は不吉な予兆だったのかもしれない。あいつは「血と死に溢れた夢」だと言っていたし、それをあんなに鮮明に覚えているなんて普通じゃない。
「本当に何事もなきゃいいけどな……。夢は夢であってほしいよ」
その時、数人の先輩たちが慌ただしく走り去っていくのが見えた。何かを話し合っているようだ。
「校門の前でトラックが横転したらしいわ。目撃した生徒も大勢いるって」
「生徒からの報告によると、お婆さんと子供が巻き込まれたそうです!」
彼女たちは現在の生徒会メンバーだ。言行一致、迷わず助けを差し伸べる、生徒の鑑のような集団。事実を確認してから動くその姿勢は徹底しており、学校から薬物が一掃されたのも彼女たちの功績だ。どんな小さな悩みでも真摯に向き合ってくれる。
校門前での事故には驚いたが、それ以上に不安になることはないはずだった。だが、生徒会の一人が放った言葉に、俺は凍りついた。
「生徒からの通報です! 今、薄い黄色の髪をした男子生徒が危険な場所からお婆さんと子供を救出したそうです!」
「おい、ちょっと待て!! あんな色の髪の奴、あいつしかいねーだろ!!」
なんでああいつがそんなところにいるんだよ! 一番そこにいちゃいけないタイプなのに!
言い終えるが早いか、俺は生徒会の後を追って走り出した。tanenterがこれ以上最悪な状況に巻き込まれていないことを祈るしかない。
「おい、tanenter!! 見つけたら思いっきり頭ひっぱたいてやるからな!!」
訂正しました。申し訳ありません。(ヽ´ω`)




