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冬の童話祭2026

黒いぼうし

作者: 六福亭

 岩の上に、黒いぼうしが一つ、ぽつんとのっていました。


 おおかた、だれかが忘れていったのでしょうが、それにしては何カ月たってもだれもとりに来る気配がありません。晴れの日も雨の日も、ぼうしはちょっとでこぼこした岩の上に、黙って座っていました。


 森の中から、広い野原にある岩とぼうしを見ていたこぐまは、こう思いました。


「もしかしたら、あの岩はもともと人間で、何かの拍子に岩になったんじゃないかしらん」


 そして、岩をこしょこしょくすぐってみたり、吠えかかってみましたが、返事などはさっぱりありませんでした。


 そのうち、飽きてしまったこぐまは、冬ごもりにそなえておいしいものを探しにいきました。


 


 強い風が吹いたある夜、帽子はびゅうっと飛ばされ、空をくるくる舞いました。それを追いかけて、ぱっと捕まえた者がありました。


「おうい、どこへ行くんだよう」

 

 そうぼうしに話しかけたのは、おばけです。おばけは、真っ黒で、軽くて、目も手足もないぼうしをおばけ仲間だと思ったのです。


「うふふ、こんなにくもったすてきな夜だもの。おれと散歩でもしようじゃないか」


 おばけはぼうしを抱えて、あちこちを飛び回りました。一緒に町のよっぱらいをおどろかしたり、ふくろうと競争をしたり、時には風に身を任せ、どこまでも遠くへと飛ばされるのを楽しみました。


 やがて雲が散って、星たちがきらきらと顔を出すと、おばけは元あったところにぼうしを返しに行きました。


「じゃあな。またいつか、散歩に行こう」


 おばけは白く透き通った手を振って、どこかへ飛んでいきました。




 冬になると、岩にもぼうしにも雪がつもります。


 あのこぐまは、とうにあたたかい巣穴で眠っていますし、おばけも自分の家でぬくぬくと、ネットフリックスを見ながら編み物なんかをしています。


 けれども、うっかり冬ごもりをしそびれた者もいるのです。


「寒い、寒いよう」


 キイキイさけびながらぼうしの前を通りかかったのは、そそっかしいねずみです。秋から冬のはじめにかけてやたらと眠ってばかりいたせいで、冬支度をなにもしていない上あんまり眠くなくなってしまったのです。


 ぼうしに気がついたねずみは、ぶるぶる震えながら、とっさにその中に飛び込みました。


「あっ、あったかい」


 ねずみはぼうしの中で丸まって、眠りました。雪や冷たい風にさらされることもなく、岩に生えたこけでふかふかだったのです。


 冬はゆっくりと過ぎて、やがて春になりました。


 ぼうしの周りがすっかりあたたかくなると、ねずみはぼうしを飛び出し、ごはんを探しにいきました。


 雪はすっかりとけ、新芽があちこち顔を出し、虫やカエルたちも目を覚まし始めました。


 さあ。今度はだれが、ぼうしの元へやってくるでしょう?


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― 新着の感想 ―
ぼうしと、くま、おばけ、ねずみの関わりが、偶然の出会いと新しい関係を象徴して面白いです。これは、冬よりも、むしろ、春に読みたいなって思いました。このお話の一番すごい所は、子熊が「岩はもともと人間だった…
単なる帽子だけど、なんとなく誰かの役に立っているような、そんな感じがしました。 帽子と相手の様子が目に浮かんで、なんだかほっこりさせていただけました。 読ませていただきありがとうございました。
案外ぼうしは幸せなのかも知れませんね。 ラストが春の季節で気持ちが明るくなりました。 しかし、おばけ、ネットフリックスって(笑) 遊び心も良かったです。 読ませていただき、ありがとうございました!
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