近衛騎士ヴォルグ、ダンボールハウスにて目覚める
寒さで目が覚めた。 背中に感じるのは、ふかふかのベッドの感触ではなく、ゴツゴツとした不燃ゴミの感触だった。
「……ぐ、うぅ……」
銀河帝国近衛騎士団、第三席。ヴォルグ・アインズ。 数々の星系を制圧してきたエリート騎士である私は、今、路地裏のゴミ捨て場に埋もれていた。
「……殿下……」
記憶が蘇る。 皇女リュミエ様を連れ戻そうとした瞬間、視界が真っ白になり、気がつけば空を飛んでいた。 ただのデコピン。 それだけで、私の強化装甲は紙細工のようにひしゃげ、この有様だ。
「つ、通信! 本国へ救援要請を……!」
私は震える手で、耳元の通信機を叩いた。
『ザザッ……ピー……ガー……』
返ってくるのは無慈悲なノイズだけ。 衝撃で次元通信ユニットが破損している。 さらに悪いことに、空間転移デバイスもショートして煙を吹いていた。
「……嘘、だろう」
呆然とする私の腹の底から、聞いたこともない情けない音が鳴った。 グゥ〜……。
「……空腹? この私が? 高濃縮マナカプセル以外を体が欲しているというのか?」
現状を整理しよう。 所持金、ゼロ(地球の通貨を持っていない)。 通信手段、なし。 帰還手段、なし。 装備、半壊。
つまり――詰んだ。
「ニャ~オ」
野良猫がゴミ袋の上から、哀れなモノを見る目で私を見下ろしている。 屈辱だ。エリート騎士である私が、原始的な四足歩行生物に同情されるなど!
「おい、そこの君」
不意に、背後から声をかけられた。 振り返ると、紺色の制服を着た男――この国の治安維持兵(警察官)が立っていた。 男は私のボロボロの鎧を見て、怪訝な顔をする。
「こんなところで何してんの? その格好……コスプレ? ちょっと署で話聞こうか」
「き、気安く触れるな下等生物! 私は誇り高き……!」
「はいはい、わかったから。身分証ある?」
「身分証……? 我が名が身分証だ!」
「うん、とりあえず交番行こうね〜」
連行されかけたその時。 私は最後の力を振り絞り、脱兎のごとく走り出した。
「待てコラァ!」 「くっ、覚えていろ地球人! 私が力を取り戻した暁には……!」
※※※※※※※※※※
1時間後。 私は商店街の電柱の陰で、一枚の張り紙を見つめていた。
『急募! 道路工事警備員(夜勤)。日払い可。体力自慢求む!』
私は唇を噛み締め、プライドを(物理的に)飲み込んだ。
「……背に腹は代えられん」
こうして、銀河の騎士ヴォルグの、地球での極貧サバイバル生活が幕を開けたのだった。 すべては、いつの日か皇女殿下を救い出し(ついでに日銭を稼ぎ)、故郷へ帰るために。
「……あのおにぎりとかいう物体、美味そうだな……」




