表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
銀河最強の厄災竜(フィアンセ)が、俺の部屋で「人間社会、チョロすぎw」とくつろいでいる件  作者: 秦江湖


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

55/55

最終話:ただいま。おかえり。銀河で一番、温かい場所

茜色の夕日が、河川敷の道を長く染め抜いている。  カラスが鳴いて、どこかの家からカレーの匂いが漂ってくる時間帯。


「……ふあぁ」


 隣を歩くリュミエが、大きなあくびをした。


「どうした、リュミエ。眠いのか?」 「授業がつまらんのだ。……エクレアの体育で体力を使い果たしたしな」


 リュミエは鞄を持ち直し、俺の制服の袖をクイクイと引っ張った。


「湊、腹が減った。歩けない」 「はいはい。もうすぐ家だから」 「おぶれ」 「嫌だよ。みんな見てるだろ」


 後ろを振り返ると、陽葵と権田がニヤニヤしながらついてきていた。  さらに後ろには、リムジンに乗った西園寺先輩が窓から手を振っている。


「青春だねぇ、九条くん! 僕も混ぜてくれないか?」 「先輩は車なんだから先帰ってくださいよ!」


 騒がしい帰り道。  数ヶ月前までは、ただ一人で歩いていた道だ。  それが今では、こんなに行列ができている。    俺たちは、銀河を巻き込む戦争をした。  皇帝と殴り合い、地球滅亡の危機を救った。  けれど、一番守りたかったのは、教科書に載るような偉業じゃなくて――きっと、この「どうしようもない帰り道」だったんだと思う。


「……あ、見えた」


 角を曲がると、俺たちの家が見えてきた。    外壁は『ネオ・オリハルコン』でピカピカに輝き、窓ガラスは『フォースフィールド』で守られた、俺たちの最強のマイホーム。  でも、そこから漂ってくる空気は、どこまでも日本的な「実家」のそれだった。


   ◇


「ぬぅ……。長考ちょうこうするぞ、博道」 「いやいや、待ったなしですよ、お義父さん」


 庭の縁側では、二人の男が将棋盤を挟んで睨み合っていた。  父・博道と、銀河皇帝だ。  二人ともお揃いのジャージを着て、コタツ(屋外用バッテリー駆動)に入り、みかんの皮を山積みにしている。


「ここ銀が成れば……いや、飛車が取られるか……。ええい、帝国の戦術AIを使わせろ!」 「ダメですよ。盤上の戦いは孤独なもんです」 「くっ、厳しいな地球のサラリーマンは……!」


 銀河を統べる頭脳が、父さんの「棒銀ぼうぎん戦法」に苦戦している。  俺たちが帰ってきたことに気づくと、父さんがパッと顔を上げた。


「お、おかえり湊! リュミエちゃんも!」 「うむ、帰ったか。……おい湊、次の一手だが、貴様の『始祖』の直感でなんとかならんか?」 「なりませんよ。自分で考えてください」


 俺は苦笑しながら、庭を通り過ぎて玄関へと向かう。  玄関の前では、竹刀を持ったエクレアが腕組みをして仁王立ちしていた。


「遅いですね、殿下。門限ギリギリですよ」 「うるさいぞエクレア。寄り道くらいさせろ」 「ふふっ。まあ、今日の晩御飯は殿下の好物ですから、許しましょう」


 その横で、ヴォルグが玄関のドアノブをドライバーで調整している。


「おかえりなさい。ドアの開閉音を『重厚感のある音』にチューニングしておきました」 「マニアックすぎるだろ……」


 家の中から、トントンと包丁を叩くリズミカルな音と、出汁だしのいい香りが漏れてくる。  母さんが夕飯を作っている音だ。  その匂いを嗅いだ瞬間、リュミエのお腹が盛大に鳴った。


「……限界だ。湊、開けろ」 「はいはい」


 俺はドアノブに手をかけた。  ひんやりとした金属の感触。    ふと、リュミエが俺の顔を見上げた。  夕日に照らされた金色の瞳が、優しく揺れている。


「……湊」 「ん?」 「私は……いい『宝物』を見つけたな」


 彼女は、この家と、中にいる騒がしい家族たちの気配を感じながら、呟いた。


「金銀財宝でもない。星の権利でもない。……こんなに狭くて、騒がしくて、温かい場所。ここが、私の『巣』だ」


 俺は頷き、彼女の手を握った。   「ああ。……ここが俺たちの帰る場所だ」


 もう、迷子になることはない。  どんな敵が来ても、どんな困難があっても。  この扉を開ければ、いつだって「日常」が待っている。


 俺はドアノブを回した。  カチャリ。  重厚な、でも軽やかな音が響く。


 扉が開くと、そこには湯気の向こうで微笑む母さんと、温かいオレンジ色の光があった。


「「――ただいま!!」」


 俺とリュミエの声が重なる。  それに答えるように、家中のあちこちから――父さんも、皇帝も、エクレアも、ヴォルグも、母さんも。  みんなの声が、合唱のように響き渡った。


「「「――おかえりなさい!!」」」


   これが、俺たちの物語の結末。  銀河最強の皇女と、ローンを背負った高校生が守り抜いた、ささやかで、世界で一番温かい景色。


 さあ、ご飯にしよう。  明日もまた、忙しい一日が始まるんだから。


(了)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ