期末テストと勉強会。コタツの魔力と、権田の裏技
学生にとって、避けては通れない壁。 それが『期末テスト』である。
放課後の九条家・リビング。 俺、リュミエ、陽葵、そして権田の四人は、参考書とノートを広げていた。
「……無理だ。眠い」
開始5分。 リュミエが早々にペンを置き、コタツの中にズリズリと沈んでいった。
「おいリュミエ! 寝るな! 赤点取ったらエクレア先生の補習地獄だぞ!」 「うるさいぞ湊……。このコタツという魔道具が、私に『休め』と囁くのだ……」
リュミエの隣では、すでにコタツと同化している銀河皇帝が、煎餅をかじりながら漫画(少女マンガ)を読んでいた。
「諦めろ、リュミエ。……この熱源が発する赤外線には、精神を弛緩させる波動が含まれている。余の精神力でも抗えん」 「お義父さん、あんたは受験生じゃないからいいけどさ! 俺たちの邪魔しないでくれよ!」
俺が嘆くと、皇帝はページをめくりながら鼻で笑った。
「ふん。たかが紙切れの試練に何を怯える。……分からぬ問題があれば、答えの方を『改竄』すればよかろう」 「ダメです。それができるのはアンタだけです」
権力で物理法則ごと正解を変えるのはやめていただきたい。
◇
「まあまあ、湊。……今回は俺に秘策があるから安心しろ」
眼鏡をクイッと押し上げ、権田が不敵に笑った。 彼がノートパソコンを開くと、画面に複雑なグラフと数式が表示された。
「ジャーン! 特製アプリ『先生の思考盗聴』だ!」 「名前が物騒すぎるだろ! 何それ?」 「過去10年分の期末テストの傾向と、今学期の先生の雑談、板書の癖、さらにはSNSの投稿内容まで全てAIに学習させたんだ」
権田がエンターキーを叩く。
「これにより、今回のテストに出る問題を98.7%の確率で予測した! ……これを見よ!」
画面に『予想問題リスト』が弾き出された。 陽葵が目を輝かせる。
「すごーい! 権田くん、天才!」 「へへっ、それほどでも。……物理の第三問は『ドップラー効果』、歴史は『フランシスコ・ザビエル』の髪型について出るはずだ!」 「ザビエルの髪型は出ないだろ絶対!」
権田の予想は胡散臭いが、藁にもすがる思いだ。 俺たちはそのリストを頼りに勉強を再開した。 ……しかし。
ポカポカ……。
コタツの温もりが、足元から脳天へと這い上がってくる。 みかんの甘い香り。 テレビから流れるニュースの心地よい雑音。
「……うぅ。ダメだ……意識が……」 「権田……AIに……『眠気覚まし』の機能は……?」
俺と権田の頭が、ガクンと揺れる。 陽葵も「ふあぁ……」と目をこすっている。 九条家のリビングは、居心地が良すぎるのだ。最強の要塞は、最強の睡眠施設でもあった。
「……ふん。軟弱者どもめ」
その時。 コタツから皇帝の手が伸びてきた。
「余が直々に『喝』を入れてやろう」
皇帝の指先に、パチパチと黒い雷(魔力)が帯電する。
「な、何をする気だお義父さん!?」 「精神刺激療法だ。……微弱な電流で脳を活性化させてやる」
バチィィッ!!
「「「あべしっ!?」」」
俺と権田、リュミエのお尻に電撃が走った。 飛び上がる三人。 一瞬で目が覚めた。というか、命の危険を感じた。
「貴様ら、学生の本分を忘れるな。……知識は力だ。余が銀河を統べることができたのも、誰よりも学び、誰よりも考えたからだぞ」
皇帝が珍しく真面目な顔で説教を垂れる。 漫画を片手に持ったままだが、妙に説得力があった。
「……分かりましたよ! やればいいんでしょ、やれば!」 「やってやろうじゃないか! AI予想と根性論のハイブリッドだ!」
◇
数日後。 テスト返却の時間。
「……お、おい。嘘だろ」
俺は震える手で答案用紙を持っていた。 【 92点 】。 自己ベスト更新だ。
「すげぇ! 権田の予想、マジで当たってた!」 「ふふん! 俺の情報戦に死角はないぜ!(なおザビエルの髪型は出なかったが)」
リュミエも涼しい顔で高得点を叩き出している。 元々頭がいい上に、皇帝の電撃スパルタ教育が効いたらしい。
「ふん。地球のテストなど、赤子のパズル遊びだな」 「よく言うよ。……お義父さんに感謝しなきゃな」
俺たちは顔を見合わせて笑った。 その日の夕飯。 皇帝は俺たちの答案用紙を見て、「悪くない」と短く褒め、ご褒美にコンビニの『プレミアムロールケーキ』を全員に奢ってくれた。 ……もちろん、西園寺先輩のブラックカードではなく、母さんからのお小遣い(お手伝い報酬)で。




