球技大会。それは「ドッジボール」という名の殺し合い
冬の寒空の下。 俺たちの高校のグラウンドには、異様な殺気が満ちていた。
「……なぁ、湊。これ、本当に『球技大会』か?」
隣で体操着姿の権田が、青ざめた顔で震えている。 無理もない。 グラウンドの四方は、ヴォルグが設置した『対爆風用エネルギーシールド』で囲まれ、審判席には深紅のジャージを着たエクレアが、竹刀を片手に仁王立ちしているからだ。
「……整列ッ!!」
エクレアの裂帛の気合いが響く。 全校生徒がビクッとして直立不動になった。
「本日の種目は『ドッジボール』である! だが、単なる遊戯と思うな。……これは、敵の投擲兵器を回避し、かつ反撃を行うための『実戦訓練』だ!」
先生、ここ進学校なんですけど。 生徒たちの心の声は無視された。
「ルールは簡単。ボールを当てられた者は『死体』とみなす。最後まで生き残ったクラスに、私が食堂の『特盛りカツカレー』を奢ってやる!」 「「「うおおおおおおっ!!」」」
男子生徒たちが野獣の雄叫びを上げた。 エクレア先生、アメとムチの使い方が上手すぎる。
「第一回戦! 2年A組(俺たちのクラス) 対 2年B組! ……戦闘開始!!」
ピーッ!! 笛の音と共に、戦いの幕が上がった。
◇
開始早々、B組の体育会系エースがボールを掴んだ。
「へっ、まずは一番トロそうな九条からだ! 覚悟しな!」
豪速球が俺の顔面めがけて放たれる。 速い。一般人なら反応できない速度だ。 だが、俺が動くよりも早く、銀色の風が俺の前に立った。
「……ぬるい」
バシィッ!! リュミエだ。 彼女は片手で、しかもよそ見をしながら豪速球をキャッチしていた。
「な、なんだと!?」 「湊に触れるには、100万光年早いぞ。……返礼だ、受け取れ」
リュミエがボールを構える。 その瞬間、ボールが赤く発光し始めた。 マズい。魔力を込めてる。
「いけません、リュミエさん! 出力制限! リミッター解除禁止!」
「安心しろ、手加減はする。……『デコピン』程度だ」
ドォォォォォォンッ!!!
リュミエの手から放たれたボールは、ソニックブーム(衝撃波)を纏ってB組の陣地へ突っ込んだ。 ボールは物理法則を無視してカーブを描き、B組の生徒たちを次々となぎ倒していく。
「ぎゃああああ!」 「見えねぇ! ボールが消えた!?」 「衛生兵(保健委員)! 衛生兵ーッ!」
一撃で5人がアウトになった。 ボールは摩擦熱で焦げ臭くなっている。
「……ふふん。どうだ湊。私の守りは完璧だろう?」
「お前、もうドッジボールじゃないよそれ! 大量破壊兵器だよ!」
◇
その後も、試合はカオスを極めた。
「へへっ、逃げ回るだけが能じゃねぇぜ!」
権田がパソコンで弾道計算を行い、「右30度! 来るぞ!」と指示を出す。意外と役に立つ。 一方、陽葵は――。
「きゃっ、怖い~!」
と言いつつ、ニコニコしながら全てのボールを紙一重で回避していた。 彼女の「天然回避スキル」は、ニュータイプ並みかもしれない。
そして決勝戦。 相手チームが全滅し、俺たちのクラスの優勝が決まった瞬間。
「……ほう。なかなか楽しそうだな」
審判席のエクレアが、不敵な笑みを浮かべてジャージを脱ぎ捨てた。 下には、動きやすいコンプレッションインナーを着用している。
「優勝チームへのボーナスステージだ。……この私から1分間逃げ切れば、賞品を『焼肉食べ放題』にグレードアップしてやろう」
「はぁ!?」
「行くぞッ!!」
エクレアがボールを掴んだ。 次の瞬間、彼女の姿が消えた。
シュンッ、シュンッ、シュンッ!
「がはっ!」「ぐおっ!」「ひでぶっ!」
目にも止まらぬ高速移動からの連撃。 クラスメイトたちが次々と屍になっていく。 これはドッジボールじゃない。一方的な狩りだ!
「くっ、エクレア! 大人げないぞ!」
「戦場に大人も子供もない! さあ、残るは湊、貴様だけだ!」
エクレアが空高く跳躍した。 太陽を背に、必殺のスパイク体勢に入る。
「これぞ騎士団奥義……『メテオ・ストライク』ッ!!」
「死ぬわボケェェェッ!!」
俺は咄嗟に右腕を突き出した。 『始祖』の力が反応し、黒い鱗が発動する。
ズドォォォォォォンッ!!!
エクレアの全力投球と、俺の右腕が激突した。 凄まじい爆風がグラウンドを吹き荒れ、ヴォルグの張ったシールドにヒビが入る。
砂煙が晴れた後。 そこには、黒焦げになって破裂したボールと、へたり込んだ俺とエクレアの姿があった。
「……はぁ、はぁ。……受け止めましたか、殿下」
「……死ぬかと思った……」
「合格です。……焼肉、連れて行ってあげましょう」
エクレアは満足げに微笑み、汗を拭った。 こうして、死傷者ゼロ(精神的ダメージは除く)で球技大会は幕を閉じた。 ちなみに、破壊されたグラウンドの修復費は、またしても西園寺先輩が「いい運動会だった!」と笑って支払ってくれたらしい。
……平和な日常って、なんだっけ?




