表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
銀河最強の厄災竜(フィアンセ)が、俺の部屋で「人間社会、チョロすぎw」とくつろいでいる件  作者: 秦江湖


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

5/55

幼馴染vs銀河皇女、焼きそばパンを巡る冷戦

西園寺先輩撃沈のニュースは、光の速さで学園中を駆け巡った。  『転入生はブラックカードより焼きそばパン派』  そんな謎の噂が定着しつつある昼休み。




「おい湊! 説明しろ! あの『西園寺キラー』とお前、どういう関係なんだよ!?」




 俺の机に身を乗り出して唾を飛ばしているのは、腐れ縁の友人、権田ごんだだ。  情報通でミーハーなこいつは、リュミエの出現に興奮しすぎて鼻息が荒い。




「関係って……ただの席が隣のクラスメイトだろ」




「嘘つけ! さっき購買で仲良くパン選んでただろ! 『湊、どれが一番カロリーが高い?』とか聞かれてたじゃねーか!」




「……人聞きが悪いな。あれは介護だ。放っておくと洗剤とか買いそうだから」




俺が適当にはぐらかしていると、教室の空気が一変した。  温度が、2度くらい下がった気がした。




「……おい、湊」




 背後からかけられた声に、権田が「ひっ」と悲鳴を上げて硬直する。  振り返ると、そこには焼きそばパンを二つ両手に持ったリュミエが立っていた。  不機嫌そうに、権田を睨みつけている。




「貴様、誰だ? 私のつが……いや、湊との会話時間を独占するな。邪魔だ」




「す、すみませんでしたァ!!」




 権田は脱兎のごとく自分の席へ逃げ帰った。  あいつ、あとで「お前マジで何者だよ」ってLINEしてくるな絶対。




「……あのな、リュミエ。クラスメイトを威嚇するなって」 「ふん。有象無象うぞうむぞうなど知らん。それより湊、この『焼きそばパン』なる物質、開封できないのだが」 「貸してみろ。……ほら、ここをこうやって……」




 俺が袋を開けてやると、彼女はパァッと表情を輝かせ、尻尾(見えないが絶対振ってる)を揺らしながらパンにかぶりついた。  その様子があまりに無防備で可愛げがあるので、周囲の男子たちが「あいつ、意外とチョロいのか……?」とざわつき始める。




 だが、その平和な餌付けタイムは、一人の乱入者によって破られた。




「ちょっと湊! あんた、またコンビニ飯!?」




鋭い声と共に、ドンッ! と俺の机に弁当箱が置かれた。  現れたのは、ポニーテールの似合う活発な少女――幼馴染の春日井かすがい陽葵ひまりだ。  彼女は腰に手を当て、呆れたように俺を見下ろしている。




「おばさんから聞いてるわよ! 『湊が最近、夜食ばっかり食べるから栄養バランスが心配』って! だから今日はお弁当余分に作ってきたのに……」 「お、おお……悪いな陽葵。助かる」




 陽葵は家が近所で、昔から俺の世話を焼きたがるオカン気質なところがある。  ありがたく弁当を受け取ろうとした、その時。




 バチッ。




空気が弾けるような音がした。  俺の横で焼きそばパンを食べていたリュミエが、動きを止めている。  その紅い瞳が、すぅ……と細められ、陽葵をロックオンしていた。




「……おい、湊」




 声のトーンが低い。  地獄の底から響くような声だ。




「なんだ、そのメスは」 「え?」




 陽葵が眉をひそめて振り返る。




「はぁ? メスって何よ。あんたこそ誰? ああ、噂の転入生?」 「質問に答えろ。……なぜ、その女が貴様に『エサ』を与えている?」




リュミエの周りの空間が、ゆらりと歪んだ。  まずい。  教室内でノイズ(バグ)が出始めている。  窓ガラスがカタカタと鳴り、天井の蛍光灯がチカチカと明滅する。




(やばい、嫉妬か!?)




 俺は冷や汗をかいた。  リュミエにとって「食事を与える」行為は、「所有権の主張」と同義なのだ。




「あー、いや! これは違うんだリュミエ! これは、その、地域の奉仕活動的な……」 「はぁ? 何言ってんの湊。幼馴染が幼馴染にお弁当作って何が悪いのよ」




 陽葵が強気な態度で、リュミエに一歩詰め寄る。




「あんたこそ、転入早々湊にベタベタして。湊はね、昔から押しに弱いから、私がついててあげないとダメなの。部外者は引っ込んでてくれる?」




「……ほう」




 ブォンッ……。  重力が重くなった。  リュミエの背後に、幻覚のような黒いオーラとネオン色の角が見える気がする。




「私を部外者と言ったか。……いい度胸だ、ちんちくりんの下等生物」




「ち、ちんちくりん!? あんたが無駄にデカいだけでしょ!?」




 バチバチバチッ!!  二人の間に火花が見える。  これはいけない。物理的な意味で学校が崩壊する。




「お、おい二人とも! 落ち着け! 昼休み終わるぞ!」 「「湊は黙ってて!!」」




 理不尽に怒鳴られた。  リュミエが、ギリッと焼きそばパンの袋を握りつぶし、俺の方を向く。




「湊。選べ」




「はい?」




「その泥棒猫の作った残飯か、私が購買で勝ち取った(湊の金で買った)焼きそばパンか。……どっちを食う?」




 究極の二択。  陽葵の弁当を選べば、嫉妬で校舎が消し飛ぶ。  焼きそばパンを選べば、幼馴染の好意を踏みにじり、のちのち殺される。




(……くそっ、これだからラブコメの主人公は!!)




 俺は覚悟を決めた。




「……どっちも食う!!」




「「はぁ!?」」




「育ち盛りなんだよ俺は!! よこせ!!」




 俺は二人から同時に昼飯をひったくると、猛然とかき込み始めた。  喉が詰まる。味なんてしない。  だが、俺の必死すぎる形相に毒気を抜かれたのか、二人はぽかんと口を開け――やがて、同時に呆れたように息を吐いた。




「……ふん。まあいい。食欲があるのは健康な証拠だ」




「もう……バカなんだから。喉詰まらせないでよ?」




 空間の歪みが収まる。  なんとか、世界(校舎)の崩壊は免れたようだ。  だが、二人の視線はまだバチバチと火花を散らしている。




俺の胃袋とメンタルが死ぬのが先か、学校が壊れるのが先か。  前途多難な学園生活のゴングが、高らかに鳴り響いた瞬間だった。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ