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銀河最強の厄災竜(フィアンセ)が、俺の部屋で「人間社会、チョロすぎw」とくつろいでいる件  作者: 秦江湖


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銀河皇帝、コタツに敗北す。そして我が家は要塞(リフォーム)へ

銀河の存亡をかけた決戦から、一週間後。  埼玉県某所、九条家。


 近所の住人たちは、ある異変に気づいていた。  「あれ? 九条さんの家、なんかキラキラしてない?」と。


 無理もない。  外見こそ、以前と同じ平凡な木造二階建て(築3年)だが、その素材は全て入れ替わっているからだ。


「素晴らしい……! これが帝国の建築技術か!」


 父・博道は、庭で新しくなった外壁を頬ずりしていた。


「外壁材は『ネオ・オリハルコン・サイディング』! 汚れがつかないどころか、核ミサイルでも傷一つ付かない耐久性! しかもメンテナンスフリーで1万年保証!」 「窓ガラスもすごいですよ、お義父さん。これ、ガラスじゃなくて『透明フォースフィールド』ですから」


 俺も窓枠をコンコンと叩く。  西園寺先輩の資金と、皇帝の提供したオーバーテクノロジー、そしてヴォルグの施工技術が融合した結果、我が家は**「地球上で最も安全な要塞」**へと生まれ変わっていた。


「これでローン(修理費)の心配もない! 最高だぁぁぁ!」


 父さんの歓喜の叫びが、秋晴れの空に吸い込まれていく。  平和だ。  だが、家の中は少しだけ様相が変わっていた。


   ◇


 リビング。  そこには、我が家の絶対的支配者コタツに囚われた、新たな犠牲者の姿があった。


「……動けん」


 コタツに肩まで潜り込み、顔だけを出している男。  銀河皇帝陛下である。  彼は父さんのジャージ(芋ジャー)を着込み、完全にダメ人間と化していた。


魔力マナを吸い取られているようだ……。この『コタツ』という魔道具、恐ろしいほどの吸引力を持っている」 「ただの暖房器具だ、父上。……いい加減に出てこい、掃除の邪魔だ」


 リュミエが掃除機をかけながら、呆れたように言った。  だが、皇帝は頑として動かない。


「断る。……余はここで、地球の文化を視察する公務中だ」 「嘘をつけ! さっきからテレビで『ワイドショー』を見ているだけではないか!」 「ふん。……この星の『不倫騒動』という概念は、実に興味深い」


 皇帝はみかんを器用に剥きながら、テレビ画面を凝視している。  あの銀河最強のラスボスが、昼下がりの主婦みたいな生活を送っている。  俺はこの光景に、まだ少し慣れていなかった。


「……なぁリュミエ。お義父さん、いつまで地球にいるつもりなんだ?」 「さあな。本国の政務はAIと優秀な部下に丸投げしてきたらしい。『有給休暇』だと言っていたぞ」 「有給って……皇帝にそんなのあるのかよ」


 俺が苦笑していると、キッチンから母さんがお盆を持ってやってきた。


「はいはい、お茶が入りましたよ~。お義父様・・・・・もどうぞ」 「うむ。かたじけない、美津子殿」


 皇帝は母さんには頭が上がらないらしい。  素直にコタツから手を出し、湯呑みを受け取る。


「……ふぅ。渋いな。だが、悪くない」 「お茶請けに『羊羹ようかん』もありますからね」 「ほう。この黒い直方体が……」


 皇帝は羊羹を一口食べ、目を丸くした。


「……甘美だ。銀河の果てにある『暗黒星雲の密』よりも濃厚な甘み……。地球の食文化は、底が知れぬな」


 すっかり餌付けされている。  そこへ、庭から父さんが戻ってきた。


「ただいまー! いやぁ、最高の家になったよ! ありがとうございます、皇帝陛下!」 「うむ。博道よ、礼には及ばん。……余もこの『コタツ要塞』の居心地を気に入っている」 「そうですか! じゃあ、今夜はとっておきの日本酒を開けましょう! 『組織のトップの孤独』について、語り合おうじゃありませんか!」 「ククク……よかろう。中間管理職サラリーマンの苦労話も聞いてやる」


 父さんと皇帝。  「家のローンを背負う男」と「銀河を背負う男」の間には、奇妙な友情が芽生えていた。  二人はコタツを挟んで、楽しそうに笑い合っている。


「……平和だなぁ」 「そうだな」


 俺とリュミエは顔を見合わせ、肩を竦めた。  窓の外では、エクレアが屋根の上で(警備という名目で)昼寝をし、ヴォルグが庭の植木を(レーザー剪定機で)手入れしている。  西園寺先輩は「リフォーム記念パーティ」の準備のため、どこかへ買い出しに行っているらしい。


 非日常が、日常に溶けていく。  これこそが、俺たちが守りたかった景色だ。


「さて、湊。私たちも負けてはいられんぞ」 「え?」 「父上が居座るということは、監視の目があるということだ。……今のうちに『既成事実』を作っておかねばな」


 リュミエが悪戯っぽく笑い、俺の腕にギュッと抱きついてきた。  コタツの中で、彼女の足が俺の足に絡みつく。


「り、リュミエさん!? お義父さんの目の前で!?」 「構わん。……見せつけてやろう、バカつがい」


 皇帝が「ぬぅ……」と渋い顔をして羊羹を噛み砕く中、俺たちの騒がしくて温かい、新しい生活が始まろうとしていた。

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