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銀河最強の厄災竜(フィアンセ)が、俺の部屋で「人間社会、チョロすぎw」とくつろいでいる件  作者: 秦江湖


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奪還作戦。騎士の雷と、資産家の煙幕

「ぐ、あ、あぁぁぁ……ッ!!」


 右肩から、嫌な音が連続して響く。  骨が軋み、腱が伸びきる激痛。  銀河皇帝の指は、俺の肉体などお構いなしに、ただ「右腕」というパーツだけをもぎ取ろうとしていた。


「素晴らしい……。これほどの純度で『始祖』の因子が残っているとは」


 皇帝は恍惚とした表情で、俺の苦悶の表情など目に入っていない様子だ。


「感謝するぞ、猿。貴様の犠牲が、帝国のさらなる繁栄のいしずえとなるのだ」 「ふ、ざけ……るな……っ!」


 視界が霞む。  力が抜ける。  もうダメか、と思ったその時。


「――その手をお離しください、皇帝陛下ッ!!」


 バリバリバリッ!!


 真横から放たれた漆黒の雷撃が、皇帝の腕を直撃した。  エクレアだ。  彼女は傷だらけの体でナイフを構え、決死の形相で飛び込んできた。


「……ほう。出来損ないのクローンではなく、オリジナルのほうか」


 皇帝は僅かに顔をしかめただけだった。  直撃したはずの雷は、皇帝の肌を焦がすことすらなく、霧散していた。


「騎士団長ともあろう者が、主人に牙を剥くか。嘆かわしい」 「私の主人は……今は、九条湊ただ一人ですッ!!」


 エクレアが吠える。  だが、皇帝は左手を軽く振った。  それだけで暴風が発生し、エクレアの体は紙屑のように吹き飛ばされた。


「きゃぁぁっ!」 「エクレア!」


 ダメだ。次元が違いすぎる。  皇帝が再び俺の腕に力を込めた、その瞬間。


 パァン! パァン! パァン!


 乾いた破裂音が響き、皇帝の周囲が突然、真っ白な煙に包まれた。


「……む?」 「今だ! ヴォルグ、走れぇぇぇ!!」


 煙の中から、聞き覚えのあるキザな声が響いた。  西園寺先輩だ!


「煙幕か。……子供騙しな」 「ただの煙幕じゃないよ! 最高純度の『金粉』と『ダイヤモンドダスト』を混ぜた、総額3億円の特製スモークさ!」


 西園寺の声が高らかに響く。  キラキラと輝く超高級な粉塵が、皇帝の視界を遮り、レーザーセンサーを乱反射させて撹乱する。


「ええい、小賢しい!」 「湊殿! 失礼します!」


 視界が奪われた一瞬の隙をついて、土木作業員姿の影――ヴォルグが飛び込んできた。  彼は俺の体と、倒れていたリュミエを両脇に抱えると、信じられない馬鹿力でダッシュした。


「重い! 二人合わせて米俵10個分はある!」 「文句言うな! 走れヴォルグ!」 「エクレア殿、退避です! 西園寺殿、カネの力でもう一発!」


「任せたまえ! 追加で5億円分、くれてやる!」


 ドパンッ! ドパンッ!  追加の宝石煙幕が炸裂し、玉座の間はきらびやかなカオスに包まれた。


「……おのれ、チョロチョロと!」


 背後で皇帝の怒号と、空間ごとねじ切るような破壊音が聞こえたが、俺たちは必死で走り続け、玉座の間の外へと転がり出た。


   ◇


 少し離れた通路の物陰。  俺たちは荒い息をつきながら、へたり込んだ。


「はぁ、はぁ……死ぬかと思った……」 「無事ですか、湊殿、殿下!」


 ヴォルグが心配そうに覗き込んでくる。  俺の右腕は……まだついている。激痛はあるが、動かせそうだ。  そして、リュミエも薄っすらと目を開けた。


「……んぅ……湊……?」 「気がついたか、リュミエ。……よかった」 「すまない……。私が不甲斐ないばかりに……」


 リュミエは悔しげに唇を噛んだ。  最強の皇女が、手も足も出なかったのだ。そのショックは大きいだろう。


「……それより、湊」


 エクレアが、俺の右腕をジッと見つめて言った。


「先ほどの皇帝の言葉……『始祖竜』というのは、本当なのですか?」 「俺にも分からない。……でも」


 俺はズキズキと疼く右腕をさすった。  この腕が、皇帝の攻撃を防いだのは事実だ。  そして皇帝は、この腕を恐れていた。


「……父上が恐れるほどの力。『始祖』……」


 リュミエが何かに気づいたように呟いた。


「そうか。……帝国の伝承にある、『星を喰らう原初の竜』。父上はずっとその力を探していた。……まさか、それが湊の中に?」


 俺の中に、銀河を滅ぼすほどの力が?  その時、通路のモニターが突然点灯し、ノイズ混じりの映像が映し出された。  映っていたのは――玉座に座り直した、不機嫌そうな皇帝の顔だった。


『――鬼ごっこは終わりだ』


 皇帝の声が艦内に響き渡る。


『貴様らがどこに隠れようと無駄だ。……この艦の主砲を、地球に向けることにした』


「なっ……!?」


『10分やろう。その間に湊と右腕を差し出せば、地球だけは残してやる。……さもなくば、この星ごと消滅させてくれる』


 無慈悲な宣告。  モニターの向こうで、皇帝は冷酷に笑っていた。


『選べ。愛する星か、己の命か』

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