表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
銀河最強の厄災竜(フィアンセ)が、俺の部屋で「人間社会、チョロすぎw」とくつろいでいる件  作者: 秦江湖


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

39/48

量産された騎士団長。……私の「心」は、コピーできない

ヴォルグたちが道を切り開いてくれたおかげで、俺たちはついに敵艦の最上層、皇帝の玉座へと続く「大扉」の前までたどり着いた。


「この奥に、父上がいる」


 リュミエが扉を見上げ、ゴクリと喉を鳴らす。  ついにラスボス戦だ。俺が覚悟を決めて扉に手をかけようとした、その時。


 シュンッ。


 音もなく、扉の前に行手を阻む影が現れた。  一人ではない。十人、二十人……。  全員が同じ背格好。漆黒の戦闘服。そして――。


「……なっ!?」


 俺は絶句した。  その顔は、隣にいるエクレアと瓜二つだったのだ。


「……ふん。やはり、投入してきましたか」


 エクレアが、吐き捨てるように言った。  目の前の集団――「偽エクレア」たちは、無表情で、人形のように冷たい瞳をしている。


「あれは『シャドウ・シリーズ』。私の遺伝子情報を元に培養された、感情を持たないクローン兵器です」 「クローンだって!? そんなこと……!」 「帝国にとっては、私はただの『優秀な検体』に過ぎなかったということですよ」


 エクレアがギリッと歯を食いしばる。  自分の偽物が、大量に量産されている。その事実は、誇り高い彼女にとって何よりの屈辱だろう。


「……標的確認。オリジナルを排除シマス」


 シャドウたちが一斉に機械的な声を上げ、抜刀した。  速い。本物のエクレアに匹敵するスピードだ。


「くっ、湊! 構えろ!」 「待ってください、殿下!」


 エクレアが、俺たちの前にスッと腕を出して制止した。


「……ここは、私に任せて先へ行ってください」 「なっ、バカ言うな! こんな数を一人で相手にするなんて!」 「行けと言っているのです、泥棒猫!」


 エクレアが叫んだ。  彼女は背中を向けたまま、震える声で告げた。


「……これは私の問題です。あのような『心のない人形』が、私の顔をして殿下の前に立つなど……騎士として許せません。私が、私自身の手で葬らなければならないのです」


 その背中は、孤独だった。  でも、今までとは違う「熱」があった。


「……分かった」


 リュミエが頷いた。


「死ぬなよ、エクレア。これは命令だ」 「……御意」


 俺たちはエクレアを残し、横の通用口へと走った。  背後で、黒い雷と雷が衝突する、凄まじい音が響き始めた。


   ◇


「排除、排除、排除……」


 十数人のシャドウが、一糸乱れぬ連携で襲いかかってくる。  エクレアは愛用のナイフで応戦するが、多勢に無勢。  徐々に追い詰められ、戦闘服が切り裂かれていく。


「……くっ、さすがは私のコピー。動きに無駄がない……!」


 感情がないゆえに、迷いがない。恐怖もない。  かつての――地球に来る前の「私」そのものだ。


「オリジナル、機能低下ヲ確認。トドメヲ刺シマス」


 三方向からの同時攻撃。  回避不能。  万事休すかと思われた、その時だ。


『――よぉ、エクレアさん。苦戦してるみたいだな?』


 耳元のインカムから、軽薄な男の声がした。  権田だ。


「ご、権田!? 今、それどころでは……!」 『へっ。俺のPCから、そいつらの制御回線が見えてんだよ。……全員同じプログラムで動いてるから、連携が完璧すぎるんだな』


 カチャカチャッ、というタイピング音。


『だからよぉ、全員まとめて**「システム・アップデート」**してやるよ』 「は?」 『ほら、PCでよくあるだろ? **「更新プログラムを構成しています。電源を切らないでください」**ってやつだよ!』


 ッターン!!


 その瞬間。  襲いかかってきたシャドウたちの動きが、ピタリと止まった。  彼女たちのバイザーに、プログレスバーが表示される。


【 Updating…… 12% 】


「……あ」


 十数人のクローンが、中腰のままフリーズした。  シュールすぎる光景だ。


『へへっ。帝国のOSも、強制アプデには逆らえねぇみたいだな! 今だぜ、エクレアさん!』 「……ふふっ。貴様という男は、本当に……!」


 エクレアは吹き出した。  力が抜けた。  かつての冷徹な自分なら、こんな状況で笑うことなどなかっただろう。  ああ、そうだ。  私は変わったのだ。  あの泥棒猫や、おかしな友人たちと出会って。


「……感謝しますよ、権田」


 エクレアはナイフを構え直した。  黒い雷が、以前よりも温かく、そして激しくスパークする。


「さあ、消えなさい『過去の私』。……今の私は、更新済み(最新バージョン)ですよッ!!」


 ズドォォォォォォォンッ!!!


 アップデート待ちで動けないクローンたちを、極太の雷撃が一網打尽にした。  一撃必殺。  黒焦げになった人形たちの中心で、エクレアは髪をかき上げた。


「……さて。殿下の元へ急ぎましょうか」


 彼女はもう、迷いのない瞳で走り出した。  その足取りは、来る時よりもずっと軽かった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ