日本の建築基準法ナメんな。木造住宅、敵艦へ突撃
「権田のウイルスのおかげで、敵の迎撃システムが沈黙したぞ!」
リビング(艦橋)で湊が叫ぶ。 目の前には、都市のような巨大さを誇る、帝国の旗艦『グランド・カオス』が迫っていた。 ウイルスでフリーズしているとはいえ、その威容は圧倒的だ。 そして何より――
「ちょ、ちょっと待てヴォルグ! スピード出しすぎじゃないか!?」 「止まりません! ブレーキ(床下収納のレバー)が焼き付いています!」 「はぁ!? じゃあどうするんだよ!」
ヴォルグは血走った目で、前方の敵艦を指差した。
「このまま、敵の格納庫ハッチへ**『強行着陸』**します! 衝撃に備えてください!」
「ぶつかるゥゥゥゥ!? バカ言えぇぇぇ!!」
父・博道が、髪を振り乱して絶叫した。
「相手は超合金の宇宙戦艦だぞ!? こっちは木造だぞ!? サイディング(外壁)が凹むどころか、家がバラバラになっちまう!!」 「父上、信じてください! この家のポテンシャルを!」 「信じられるかァァァ!」
ドォォォォォンッ!!
問答無用。 九条家は、隕石のような速度で、敵艦の厚さ5メートルの装甲ハッチへと激突した。
ガガガガガガガッ!!! 凄まじい衝撃音と火花が、窓の外を埋め尽くす。 食器棚が倒れ、冷蔵庫が歩き出し、西園寺先輩がソファーごと宙を舞う。
「あわわわわ! 基礎が! 俺のこだわりのベタ基礎がぁぁぁ!!」
父さんは柱にしがみついて泣き叫んでいた。 だが。
ズドォォォォンッ!!!
最後の衝撃と共に、視界が開けた。 窓の外には――広い格納庫と、整然と並ぶ帝国兵器の山があった。
「……え?」
湊は恐る恐る顔を上げた。 家は……無事だった。 多少、瓦が落ちたり雨樋が歪んだりしているが、倒壊はしていない。 むしろ、突き破られたのは、敵艦の超合金装甲の方だった。
◇
「な、なんだと……!?」
格納庫に配備されていた帝国兵たちは、我が目を疑った。 警報が鳴り響く中、土煙を上げて鎮座していたのは、見慣れぬ「木造建築物」だったからだ。
「報告! 敵の突撃艇により、第3ハッチが大破! 装甲が紙のように破られました!」 「馬鹿な! 我が軍の装甲は、核攻撃にも耐える特殊合金だぞ!? 一体どんな未知の素材で作られているんだ!?」
兵士たちが戦々恐々としてその「未知の兵器」を見上げる。 すると、破壊された玄関ドアが、ギィ……と開いた。
「……見たかァァァァァッ!!」
そこから現れたのは、鬼の形相をした中年男性(父)だった。
「これが日本のハウスメーカーの底力だ!! **『耐震等級3』**をナメんじゃねぇぇぇ!!」
「ヒィッ! き、貴様は何だ!?」 「俺か!? 俺は35年ローンを背負った、ただの施主だぁぁぁ!!」
父の咆哮が格納庫に響き渡る。 その背後から、湊やリュミエ、エクレアたちが武器を構えて飛び出してきた。
「行くぞみんな! 父さんが道を切り開いてくれた!」 「うむ! 見事な体当たり(タックル)だったぞ、義父上!」 「……ただの交通事故ですけどね」
九条家、敵艦内部への侵入に成功。 勝因は、ヒノキの柱と、日本の厳しい建築基準法だった。




