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銀河最強の厄災竜(フィアンセ)が、俺の部屋で「人間社会、チョロすぎw」とくつろいでいる件  作者: 秦江湖


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34/55

灼熱のマイホーム。エンジン冷却水は『昨夜の残り湯』で

ドローン部隊を撃退し、九条家(戦艦)は再び静寂を取り戻した――かに思えた。


「……暑くないか?」


 リビングのコタツに入っていた俺は、額の汗を拭った。  さっきまで宇宙空間の冷気で冷え込んでいたはずなのに、今は真夏の締め切った部屋のように蒸し暑い。


「……ふぅ、ふぅ。湊、アイスはないか……? 私はもう溶けそうだ……」


 隣のリュミエもぐったりしている。  彼女は爬虫類ベースのドラゴンのためか、極端な温度変化に弱いのだ。  ベランダから戻ってきた西園寺先輩に至っては、シルクのガウンをはだけさせ、床に大の字になって伸びている。


「優雅じゃないねぇ……。サウナなら、フィンランド産の白樺の香りが欲しいところだよ……」


 ピーッ! ピーッ! ピーッ!


 突然、キッチン(機関室)の方からけたたましいアラーム音が鳴り響いた。


「け、警告! エンジン臨界点突破! 排熱が追いつきません!」


 ヴォルグが冷蔵庫の扉を開けっ放しにして、中の冷気を必死に床下のエンジンルームへ送ろうとしている。


「どういうことだヴォルグ! 故障か!?」 「無理な改造がたたりました! 帝国の高出力エンジンに対し、この家の冷却システム(換気扇と扇風機)では容量不足です! このままではあと5分で……」


 ヴォルグは絶望的な顔で告げた。


「床下が融解し、九条家は爆散します!」


「ぎゃぁぁぁぁぁ!! やめろぉぉぉ! 床暖房入れたばっかりなんだぞぉぉぉ!!」


 父さんが頭を抱えて絶叫する。  火災保険は「宇宙戦争による爆発」なんてカバーしていないだろう。


「冷却水だ! とにかく大量の水冷媒が必要なんだ!」 「水!? 水道水じゃダメなのか!?」 「断水してます! さっきの衝撃で水道管が元栓からちぎれたので!」


 万事休す。  飲み水やペットボトルのお茶程度では、焼け石に水だ。  室温は見る見る上昇し、50度を超えようとしている。  俺たちの意識が朦朧とし始めた、その時。


「あらあら。お水なら、あるじゃない」


 灼熱のリビングに、涼やかな声が響いた。  母さんだ。  彼女は「なんでそんなに暑いの?」と不思議そうな顔で、お風呂場の方を指差した。


「昨日の夜、お父さんが入った後、お湯を抜かずに残しておいたのよ。今日の洗濯に使おうと思って」


「「「それだァァァァァッ!!!」」」


 俺とヴォルグと父さんの声がハモった。  まさか、母さんの「もったいない精神」が銀河を救うことになるとは。


「ヴォルグ! 風呂場だ! ホースを繋げ!」 「イエッサー! 洗濯用の給水ポンプを逆流させ、エンジン直結冷却パイプへ接続します!」


 ヴォルグが脱衣所へダッシュする。  俺たちも続く。  浴槽には、昨晩の残り湯(入浴剤『森の香り』入り)がなみなみと溜まっていた。


「頼む……! 冷えてくれぇえええ!」


 ヴォルグがスイッチを入れる。  ギュルルルルルッ!  ポンプが唸りを上げ、緑色のお湯がものすごい勢いで吸い上げられていく。


 ズズズズズ……。  床下から、何かが蒸発するような音が響いた。


「冷却液、注入開始! ……温度、下がっています! エンジン出力安定!」


 プシュゥゥゥゥゥゥゥゥゥ……ッ!!!


 九条家の床下通気口から、盛大な蒸気が宇宙空間へと噴き出した。  真っ白な水蒸気が、家の周りを覆い尽くす。  リビングの室温がスーッと下がっていく。


「た、助かった……」


 俺はその場にへたり込んだ。  命拾いだ。文字通り、首の皮一枚(と残り湯一杯)で繋がった。


「ふぅ。いい湯加減だったな(エンジンが)」 「意味がわからんぞヴォルグ……」


 窓の外を見ると、家から排出された蒸気が、森の香りを漂わせながら宇宙の彼方へ消えていくのが見えた。  敵のドローンたちが、その謎の煙幕(ただの湯気)を警戒して距離を取っている。


「……母さん。ありがとう」 「いいえぇ。でも、洗濯のお水が無くなっちゃったわねぇ」


 母さんは残念そうに言ったが、その表情はどこか誇らしげだった。  こうして、九条家は爆散の危機を免れた。  だが、安堵する間もなく、俺たちの目の前に、信じられないほど巨大な「壁」が現れた。


 敵の旗艦だ。  全長数キロメートル。都市そのものが浮いているような超巨大戦艦が、圧倒的な威圧感で俺たちの前に立ちはだかっていた。

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