マイホーム防衛戦。屋根の上の騎士と、ベランダの課金砲台
大気圏を突破した瞬間、空の色が青から漆黒へと変わった。 窓の外には、無限に広がる星空と、地球の青い曲線。 そして――目の前を埋め尽くす、無数の赤い光点。
「敵襲だ! 全方位から来るぞ!」
リビング(艦橋)で、ヴォルグが叫んだ。 帝国の無人迎撃機の大群だ。ハチの巣をつついたような騒ぎで、我が家めがけて殺到してくる。
「ひぃぃぃ! あんなのが当たったら、外壁塗装が剥げるどころじゃないぞ!」 「父上、落ち着いてください! シールド(雨戸)出力、最大!」
ガシャン! という音と共に、家の全ての窓に雨戸が降りた。 薄暗くなるリビング。隙間から漏れる赤い閃光と、外壁を叩く衝撃音。 ドガガガガガッ!
「くっ、防戦一方かよ! こっちから撃ち返せないのか!」 「任せておけ、湊」
コタツに入ったまま、リュミエがニヤリと笑った。
「我が家の防空システムは優秀だぞ。……なぁ、エクレア?」
◇
場所は変わって、九条家の屋根の上。 瓦の上に仁王立ちする人影があった。 風圧などものともせず、漆黒の戦闘服をなびかせる騎士団長、エクレアだ。
「……まったく。殿下も人使いが荒いですね」
彼女は迫りくるドローンの群れを見据え、愛用のナイフ(とモップ)を構えた。
「ですが、ここは今の私の寝床(仮宿)です。……騒音で安眠を妨害されるのは、我慢なりませんね!」
バチチチッ!! 彼女の全身から黒い雷光がほとばしる。
「――消えなさい、羽虫どもッ!!」
彼女が屋根を蹴った。 黒い稲妻となり、宇宙空間を跳ね回る。 一閃。また一閃。 ドローンたちが紙切れのように両断され、爆発していく。
「すごい……! エクレアさん、瓦一枚割らずに戦ってる!」
2階の窓から覗いていた陽葵が歓声を上げる。 だが、敵の数は多すぎる。 一機のドローンが防空網を抜け、ベランダへと特攻をかけてきた。
「しまった、右舷が手薄です!」
ヴォルグの悲鳴。 だが、その時。ベランダに設置された優雅なティーテーブルの横で、ガウン姿の男がグラスを傾けた。
「フッ……。レディの家を覗くとは、マナーのなっていない客だね」
西園寺玲央だ。 彼はベランダの手すりに設置された、巨大なガトリング砲のような装置に手をかけた。
「見せてあげよう。西園寺財閥の経済力を!」
カチャリ。彼が弾倉にセットしたのは、弾丸ではない。 キラキラと輝く、最高純度のダイヤモンドの山だった。
「一発50万円! ファイアァアアアア!!」
ズダダダダダダダダッ!!!
光の弾幕が放たれた。 ダイヤの硬度と、電磁加速による運動エネルギー。 それは物理法則を無視した「札束ビンタ」となって、ドローンを粉微塵に粉砕した。
「ハハハハ! どうだい! 今ので高級外車が一台買える額が飛んでいったよ!」 「……あの人、ある意味一番怖いんだけど」
陽葵がドン引きする中、西園寺先輩の課金砲撃と、エクレアの雷撃演舞により、第一波の攻撃は見事に防がれたのだった。
「ふぅ……。とりあえず一安心ね」
母さんが、何事もなかったように急須でお茶を淹れ直した。 戦艦『九条家』は、爆炎の煙を突き抜け、さらに敵陣深くへと進んでいく。




