表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
銀河最強の厄災竜(フィアンセ)が、俺の部屋で「人間社会、チョロすぎw」とくつろいでいる件  作者: 秦江湖


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

22/55

エクレア騎士団長の華麗なる包丁さばき(物理)

キャンプ場に到着した俺たちを待っていたのは、地獄の飯盒炊爨だった。




「湊! 火だ! 火を熾せ! 早くしないと私が生のニンジンを齧り始めるぞ!」


「ちょっと待てリュミエ! お前、火起こし係だろ!?」


 リュミエは「面倒くさい」と言って、指先から紫色の火球を出し、薪を一瞬で炭に変えてしまった。  火力が強すぎる。  こっちはこっちで問題だが、もっと深刻なのは野菜切り係の方だった。


「……料理など、要は対象を解体すればいいのでしょう?」


 エクレアがまな板の前に立ち、ジャガイモを睨みつけていた。  彼女が手に持っているのは、学校の調理実習用包丁……ではなく、彼女の自前の「暗殺用コンバットナイフ」だった。


「いや、なんで凶器持参なんだよ!?」


「私の体の一部ですから。……見ていなさい、泥棒猫。これが銀河騎士の剣技です」


 彼女の金色の瞳が鋭く光る。


「――シィッ!!」


 シュォオオオオンッ!!


 目にも止まらぬ速さでナイフが閃いた。  空気を切り裂く鋭利な音。  次の瞬間、ジャガイモは――


 サラサラサラ……。


「……は?」


 ジャガイモは、粉末になっていた。  みじん切りではない。文字通り、原子レベルで分解された砂になっていた。



「……火加減を間違えましたね。少し出力が高すぎたようです」


「お前、料理する気あるのか!? それ兵器だろ!」


「失礼な。殿下の離乳食は私が作っていたのですよ?」


 エクレアがムッとして反論する。  隣で焚き火を見ていたリュミエが、遠い目をした。


「ああ……。エクレアの離乳食は、いつも『流動食(粉末を溶かしたもの)』だったな……」 「殿下!? それは言わない約束では!?」


 どうやらこいつも、とんでもないポンコツらしい。  俺は溜息をつき、エクレアからナイフを取り上げた。


「貸せ。俺がやる」


「なっ……貴様ごときに、私の愛刀が扱えるとでも……」


「いいから見てろって」 



 俺は慣れた手付きでジャガイモの皮を剥き、一口大に切り分けていく。  母さんのスパルタ教育と、リュミエへの餌付けで培った技術だ。


「……ほぅ」


 エクレアが感心したように目を丸くする。  猫耳(幻覚)がピクリと反応し、尻尾が興味深そうに揺れている。


「意外ですね……。戦闘力はミジンコ以下なのに、調理スキルだけは殿下より上だとは」


「一言多いな。……ほら、次はニンジンの乱切りだ。教えてやるからやってみろ」


 俺は包丁を(調理用包丁を)彼女に渡し、後ろから手を添えて教えた。


「こうやって、少し角度をつけて……」 「……っ!?」


 俺が手を重ねた瞬間、エクレアの身体がビクッと跳ねた。


「ち、近いです! 離れなさい、泥棒猫! セクハラですか!?」


「教えてやってるんだろ! 動くな、危ないから」


「……くっ」


 彼女は顔を真っ赤にして、大人しく従った。  さっきまでの殺気はどこへやら。  俺の腕の中で、借りてきた猫のように小さくなっている。


(……なんだこいつ。意外とチョロいのか?)


 俺がそう思った時。  背後から、冷え冷えとした視線を感じた。


「……おい、湊」


 リュミエだ。  彼女の周囲の空間が、歪んでいる。  彼女の尻尾が、バチバチと火花を散らしながら、不機嫌そうに地面を叩いている。


「楽しそうだな。私の幼馴染と、イチャイチャと」  


「ち、違う! これは料理指導であって断じて不純な動機では……!」


「問答無用。……今日のカレーは、激辛にする」


「やめろォオオオオ!! 俺の胃が死ぬ!!」


 結局。  その日のカレーは、リュミエの嫉妬スパイスと、エクレアの粉末ジャガイモが混ざり合った、この世のものとは思えないマターとなった。  食べたクラスの男子たちが次々と倒れていく中、リュミエとエクレアだけが「悪くないな」と平然と完食していたのが、印象的だった。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ