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銀河最強の厄災竜(フィアンセ)が、俺の部屋で「人間社会、チョロすぎw」とくつろいでいる件  作者: 秦江湖


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13/55

世界が終わるその前に、君と最後のデートをしよう

家に帰ると、そこには残酷なほどの日常があった。


「遅いぞ、湊。腹が減りすぎて、もう少しで隣家の犬を捕食するところだった」


 リビングのソファで、リュミエが不満げに頬を膨らませていた。  その顔色は、朝よりも少し悪く見えた。  白い肌が、どこか陶器のように透き通って見えすぎるのだ。


 ……無理をしている。  ヴォルグの言葉が脳裏に蘇る。  彼女は今、ここに座っているだけで、命を削っている。


「……湊? どうした、顔色が悪いぞ。学校で西園寺にでも絡まれたか?」


「え、あ、ああ……ちょっと疲れただけだ」


俺は必死に笑顔を作った。  ここで「お前のためだから帰れ」と言えれば、どんなに楽だろう。  でも、俺を見上げる彼女の紅い瞳が、あまりにも無垢で、信頼に満ちていて。  喉まで出かかった言葉が、鋭い棘になって胸に刺さった。


(……言えるわけ、ないだろ)


 俺はキッチンへ向かいながら、背中で彼女に問いかけた。


「なぁ、リュミエ」


「ん?」


「明日、日曜日だし……どっか行くか?」


「ほう。ダンジョンか?」


「違う。……デートだ」


 包丁を握る手が震えないように、俺は力を込めた。


包丁を握る手が震えないように、俺は力を込めた。


「お前、まだ東京観光してないだろ。スカイツリーとか、浅草とか。……行きたいところ、全部連れて行ってやるよ」


 背後で、ガタッとソファが鳴る音がした。


「で、でぇと……!? つがい同士の、求愛の儀式か!?」


「まあ……そんなもんだ」


「い、行く! 当然行くぞ! ふん、貴様にしては殊勝な心がけではないか!」


 彼女の声が弾んでいる。  尻尾がブンブンと空気を切る音が聞こえる。  俺は振り返ることができなかった。  今、振り返ったら、きっと泣きそうな顔を見られてしまうから。





 翌日。快晴。  集合場所のリビングに現れたリュミエを見て、俺は息を呑んだ。


「……どうだ、湊。母上に見繕ってもらったのだが」


 彼女は、白いワンピースにデニムジャケットを羽織り、髪をハーフアップに結っていた。  いつもの「尊大な皇女様」ではなく、どこにでもいる「年相応の美少女」の姿。  あまりにも似合いすぎていて、そして、あまりにも儚げだった。


「……ああ。すごく、似合ってる」 「ふん。当然だ。素材が良いからな」


 彼女は照れ隠しにそっぽを向いたが、耳まで赤くなっている。


「さあ行くぞ、湊! まずは『くれーぷ』というものを所望する!」


「はいはい」


 彼女が俺の手を取り、玄関へと駆け出す。  繋いだ手の温もり。  その手のひらの内側に、昨日は見えなかった「黒い亀裂」が、少しだけ広がっていることに気づいてしまった。


 俺は気づかないフリをして、彼女の手を強く握り返した。


「……ああ、行こう」


カウントダウンは止まらない。  世界で一番切なくて、短いデートが始まった。



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