【️短編】(株)転生トラック運送会社
ひょっとしたら異世界転生の裏側ではこんなことが行われている…かも?
俺の名前は相田樹。
28歳のどこにでもいるような平凡な男だ。
ただ一つだけ普通じゃないことがある。
それは仕事だ。
俺はとある運送会社に勤めている。
何が普通じゃないのかって?
それは運ぶものと運ぶ場所だ。
会社の名前は転生トラック運送会社という。
そう、お察しの通りに俺の仕事は人を異世界に送り込むことだ。
異世界なんて現実に存在するのかって?
するんだな、それが。
小説なんかでよくある交通事故で異世界転生なんてのは実は的を射ている。
俺たちの会社は異世界に人を送り込む業務を独占していて、事故をもみ消すからトラックで異世界に転生するなんて事は外部に漏れるはずがないんだけどな、なぜか異世界転生のテンプレはトラックによる交通事故になっている。
世の中不思議なこともあるもんだ。
まあ俺の仕事が1番不思議だけどな。
ここまで聞いた人達はいつも2つ疑問が浮かぶんだよな。
1つ目はなぜトラックなのか、という話だ。
理由は簡単だ。
トラックの質量、そして速度がちょうど異世界とのゲートを開くのにぴったしなんだ。
そしてこれには高い技術力が要求される。
それがうちの会社が事業を独占している理由だ。
だが慣れちまえば簡単だ。
人を轢いて開いたゲートにそのうち浮かび上がってくる魂を放り込むだけ。
2つ目の疑問は心は痛まないのか、という話だ。
もちろん俺だって最初は精神的にキツかったさ。
けどそれ以上に給料がいいんだよ、この会社。
なんなら人の命を扱う仕事だから少ないくらいだ。
もっとも人の魂を異世界に送り込んでいるから厳密には殺人罪ではない、というのが弊社の上層部の見解だ。
おっと、そんなことを話していたらもう家を出る時間だ!
「行ってきます!」
誰も居ない部屋に挨拶をして部屋を出る。
出社すると上司に紙を渡された。
「相田くん、これが次の対象者だ。くれぐれもヘマしないように頼むよ。」
「はい、精一杯やらせていただきます!」
渡された紙を見るとどうやら女子高校生が対象のようだ。
異世界転生させる対象者ってのは高校生が多い。
やっぱりはっきり自我があり異世界に放り込んでも生きていけそうな人間ってのは若い奴が多い。
対象者が決まればあとの仕事は実際に動くことだ。
まずは対象者の行動パターンを把握する。
じゃないと対象者がいない道をトラックで走る無駄なことをする事になってしまうからな。
紙には通っている高校の名前が書いてあった。
北田南高校…
おいおい、俺の母校じゃねえか。
後輩を異世界に送るのは何となく気が引けるなあ。
いやでも、母校ってことは学校を出てくる時間帯がわかりやすいってことだな、プラスに捉えよう。
それからというもの俺は北田南高校が見える場所に張り込んだ。
対象者のスケジュールを把握するためだ。
1週間、2週間と対象者を観察し続けた。
実はこの仕事、トラックで轢くことよりも圧倒的に対象者の観察をする時間が長い。
なぜなら失敗は許されないからだ。
1度失敗してしまうと当然対象者は交通事故に気をつけるようになるよな?
そうなると轢き殺すことが途端に難しくなってしまう。
こんなに観察しているからうちの会社では対象者が居ないフリーのタイミングでの副業が推奨されている。
当然推奨される副業は探偵だ。
人を観察する時間が長いんだから当たり前だよな。
そのスキルを活かせる。
さて、2週間ほど張り込んだところで対象者のスケジュールがだいたい掴めてきた。
月曜日は部活がなく4時すぎに学校を出る。
他の平日は部活をしてから学校を出ている。
彼女の部活はバドミントン部で、帰りはその友人たちと仲良さそうに帰っている。
そして帰り道途中に十字路がある。
そこを歩く時彼女は1人だ。
よし、決行は月曜日にしよう。
月曜日に俺は十字路沿いの家の塀に指に乗るほどの小型カメラを設置した。
タイミングを完璧にするためだ。
送られてくる映像をトラックに設置されているモニターで見る。
ちなみにトラックも特別製でな、ゲートを開くのに必要な速度を維持できるシステムが組み込まれている。
当然この速度はぶつかれば命を奪うことができる速度だ。
そんなことを言っていたらもう4時をすぎている。
あとすこしで対象者は十字路を曲がってくるはずだ。
待つこと数分、トラックのモニターに対象者が映り込む。
今だ!
アクセルを踏み込む。
自動的にゲートを開く速度になる。
俺の計算が正しければ必ず今曲がってくるはずだ。
来た!
十字路を対象者が曲がってきた。
バン!!
トラックが対象者をはね上げる。
ドサッ
対象者が地面に叩きつけられる。
よしよし、この感じなら死んだだろ。
トラックに置いてあるメガネをかける。
このメガネは異世界へのゲートと魂を観測できる代物だ。
おっけー、ゲートは開いている。
あとは魂が浮かび上がってくるのを待つだけ。
今のうちに救急車を呼ぶ。
事故をもみ消すのになぜ呼ぶのか、気になるだろ?
もみ消すのは俺たちの仕事じゃない、国の仕事だ。
言い忘れていたがこの仕事、国と結託している。
詳しくは知らないけど異世界との交流で俺たちの世界は魂を交易に出しているとの事だ。
異世界から何が送られているのかは俺達には知る由もない。
おっと、魂が浮かび上がってきた。
魂をゲートに放り込む。
これで業務終了、あとは警察に出頭するだけだ。
数日後俺は警察署で事情聴取を受けていた。
当然のごとく黙秘をする。
いつもこうだ。
こうしているとそのうち何も言われずに開放される。
そう、警察の上層部から解放しろと命令が出るのだ。
こうして事故は完全にもみ消される。
これで一連の流れは終わりだ。
しばらく運送業のほうは仕事がないから副業の探偵をすることにする。
それから1ヶ月もしないうちだった。
会社で上司に言われた。
「相田くん、次の仕事だ。またしっかり成功させてくれよ、期待している。」
新しい対象者だ。
名前は…カイト、剣道部の高校生らしい。
さて、それじゃあ今日も、お仕事頑張りますかね!
初めての短編です。
お楽しみいただけたら幸いです!