夢生産
駅前に新しいポスターが貼られてある。
『夢工場で夢生産のお仕事を体験しませんか?予約なしで受付中です。場所〇〇番街二丁目です。お待ちしています!』
学校からの帰宅途中、本藤知香恵の目は、そのポスター内容にくぎ付けとなっていた。
知香恵は現在高校三年生……折しも進路について考えている最中だったのだ。
「夢生産って……よく分かんないけど、体験してみようかな?暇だし」
「でもさ、この『夢』って、謎だよな?怪しいって言うか……ヤバいモンとか、作ってんじゃないか?」
知香恵の幼馴染み、日下部勇一は、ポスター内容の文を怪しんでいる
勇一の観察力は鋭いモノで、ありとあらゆる死角に気が付く性分なのだ。
「変な物なら、堂々と駅前なんかには貼らないと思うよ?『夢』って書いてるくらいだから、安眠枕か何かじゃないかな?」
「堂々と貼ってるからこそ、逆に怪しいんだ。枕だったら、そう書くだろ?」
「う~ん……そうかなあ?」
知香恵には怪しいとは思えないが、勇一はポスターでの募集を本気で怪しんでいる。
「昔っから危なっかしいよな。そんな変な工場なんかに行かないでさ、他にあるだろ?水族館『アクア』の受付とか、ショッピングモール『ワクセイ』の受付とか、色々……」
「ゆうちゃんてば、受付ばっかし。そんなに私、受付タイプかな?それに、そこはゆうちゃんの家の近くばっかし!」
「近くにしときゃ安心だろ?本当、危なっかしいんだから」
「ハイハイ。分かったわ。じゃあ、進路は別のを考えるね」
☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆
(ゆうちゃんには、ああ言ったけど……気になるから来ちゃった。体験なんだし、いいよね)
「あの、駅前のポスターを見てお仕事の体験希望で来ました」
工場の入り口にある警備室の奥へと声をかける知香恵。
「はーい!体験希望の方ですね。それではこちらの用紙にお名前をご記入下さい」
風変わりな制服を着た警備員が、紙と鉛筆を差し出した。
警備員の顔だが、その辺りも風変わりな感じが醸し出されている。
(容姿の事は考えちゃだめ!失礼でしょ、私!)
警備員の顔が気にはなるがジロジロ見るのは不躾なので、出来るだけ名前を書く事だけに集中した。
「はい……お名前確かに受けとりました。それでは中へお入り下さいませ。入り口から右側が『夜夢コース』で、左側が『未来夢コース』となります。両方体験も出来ますので、ご自由にお進み下さいませ」
「ありがとうございます。失礼致します」
知香恵は警備員へと礼を言うと、工場内へ進んでいった。
(『未来夢コース』に行こう。未来って、今の私に丁度良いワード)
『未来夢コース』がピッタリだと予感した知香恵は、そのコースでの体験を選んだ。
「こんにちは!お仕事体験される本藤知香恵さまですね!我が『未来夢コース』へようこそ」
「はい。宜しくお願いします」
作業場に入ると最初に見えたのがベルトコンベアで、それぞれの配置に立つ従業員。
(雰囲気は普通に工場内、って感じだけど……働いてる人は何処か変)
警備員の容姿と似たりよったりの姿をした従業員が、ベルトコンベアを流れる品をチェックしている。
「じゃあ、向こうにいる虹色のエプロンをした人……『青獏』さんの隣で、流れる箱にシールを貼り付けていって下さい」
「はい」
指示を受け、知香恵は虹色に染まるエプロンを着用した女性だろうか、『青獏』の隣に移動した。
「今日体験させて頂きます。『ユメオイ・チカエ』です。宜しくお願いします」
(えっ⁉何これ!)
「ヨロシクね。青獏と云います」
至近距離で見ると青獏の顔が獏だという事に気付いた。他の従業員も、羊や獏の姿をしているが、怖さはなく絵本に迷い混んだみたいな心地よさに陥る。
(怖くないからいいか。名前が風変わりなのは、絵本に入ったからよね……箱にシールを貼る、っと!)
シールを貼る度箱から人物像が浮かんでくる。
(これ……もしかしたら箱にそれぞれの人の未来が入ってるって事?この箱には小さな男の子の未来……宇宙飛行士。こっちの箱にはお年を召されたおばあさんの未来……孫が沢山……この箱には……あ!)
箱を手にした時、勇一の顔がポワン……と浮かんだ。
(ゆうちゃんの未来?確かゆうちゃん、デザイナー志望だったよね。デザイン好きで、賞にも沢山入賞してるし……ビンゴだ!と、もう一つある?)
箱を通じて勇一の描く未来が浮かんだ。
(えっ……これって!ゆうちゃんてば!本気なの?)
もう一つの未来は燕尾服を着た勇一、がウェディングドレスを着た知香恵と隣り合わせに歩いている光景。
(だからあんなに、心配してくれてたの?でも……明日からどんな顔して会えば良いの?)
勇一の未来を見た知香恵はお仕事体験を終えて、ボンヤリした気持ちで帰宅するのだった。
(夢を創る工場……そこに就職するのも結構良いかも……帰ったらゆっくり考えよう。もう一つ、夢が生まれた、かも)




