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(β版)  作者: 自彊 やまず
第八章 最終決戦編
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第八十七話 誰かの為だから戦う➁

 荒廃した戦場に響くアオイの怒声。

 彼はリラに向かって槍を突き出し、怒りに燃える一撃を繰り出した。しかしリラはその攻撃を冷静に見極め、鋭い動きで槍の軌道を逸らす。


「卑怯とは笑わせる。戦場においては、勝利こそが正義だ」


 リラの声は冷徹でありながら、どこか静かな怒りを秘めていた。彼はアオイの隙を突き、素早く背後に回り込む。

 そして、アオイの槍を奪うようにその手を捻り上げた。


「くっ…!」


 アオイは苦痛に顔を歪めながらも、力を振り絞ってリラを振り払おうとする。

 しかし、その瞬間、ルピナが再び立ち上がり、アオイの背後から迫った。


「リラ、援護する!」


 ルピナの声と共に、彼の鋭い鉤爪がアオイの背中を狙う。アオイはその攻撃を察知し、槍を手放して身を翻すが、ルピナの爪は彼の肩をかすめ、深い傷を刻んだ。


「チームワークも完璧と言ったところだな」


 アオイは傷を抑えながら後退し、ザザの倒れた姿を一瞥する。

 その目には焦りが表れ、劣勢の状況を何とか打破せんと、脳内に思考を巡らせていた。


 しかし、何度考えようとも、アオイのシミュレーションが成功することは無い。

 尽きた体力、敵は鍛えられた獣人と、最強の混血ハティ一族の末裔。


 その瞬間、脳裏によぎる作戦失敗の四文字。


「――それはならん。どんなことがあろうとも、ビサの為に命を捧げる。そのつもりで武人をしてきた。最後まで戦うのみよ。」


 頭からネガティブな感情を振り払い、再び槍を構えたアオイ。

 その目には、宿敵であるルピナやリラに伝わるほどの、熱い想いが宿っていた。


「魂は受け継がれ、志は消えぬ。己を燃やして築かれる礎は、未来へと続く道となるのだ。その思いが新たな力へと変わり、次なる者たちへと託されていく――まさしく不滅の意志」


 今まで自分だけを信じてきたアオイだったが、死に際の今、マンナズを、そして吸血兵、カシムを信じ、彼女の思う、あるべき未来へとその思いを託す。


 彼女がそう呟いた刹那、リラは自身の腹部に強烈な痛みを感じることとなった。


 アオイが自身の全ての力を使い切り、ラストの一押しとして繰り出した突き。

 彼女の愛槍がリラの腹部を貫き、切っ先を赤に染めたのだ。


 その突きが途轍もなく速かったわけではない。

 何かタイミングをずらされたわけでもない。


 しかし、何故かリラはその攻撃を避けることができなかった。

 彼女が最後のエネルギーを振り絞って放ったその一撃は、まるで運命そのものを切り裂くかのように、鋭く、重く、そして不可避の意思を持っていたからだ。


「カハッ!」


 リラが吐血し、ワンテンポ遅れてルピナがアオイの体を切り裂く。

 鮮血が噴き出し、アイアンクローを喰らった彼女は地面に倒れた。


「リラ!」


 ルピナがリラの下へと駆けつけ、負傷した腹部を抑えた。

 彼の手が血に染まり、生暖かく、ドロッとした液体が指の間に染み出してくる。


 心配するルピナだったが、対照的にリラは落ち着いて傷を分析していた。


「心配ない。アオイはわざと急所を外して攻撃してきた。チームワークの整った我々が拙者を見捨てて進まないと踏んだのだろう。カシムやゼリクの下へ行かせないため、拙者を殺さない程度に負傷させたのだ」


 アオイは吸血族であるため、本来味方が負傷しても回復力に頼り、手助けすることは無い。

 しかし、彼女はこれまで見て来た人間やルピナ達の行動を見て、確実に足止めができる方法としてこれを選んだのだった。


 全ては常夜が終わるまで。

 吸血族軍が耐え抜くために。


 ルピナは項垂れ、一発やられたとでも言わんばかりに溜息をついた。


「ハァ、悔しいが、その通りだ。僕たちは君を見捨てたりしない。ロランやクリスに追いつくことは諦めて、彼らを信じよう」


「てなわけで、シトラスに加勢してやってくれ。拙者は応急処置くらい自分でできるし、さぁ、行きたまえ」


 リラがそうルピナに告げると、ルピナはリラに後ろ髪惹かれながらも、シトラスとマンナズが戦う場所へと駆けて行った。






 ロランは人の姿に戻り、ボロボロになったズボンだけを履いてステティア市内の道を歩いていた。


 僅か100m先には、墜落した飛行船が瓦礫を吐き出し、炎を噴き上げている事故現場が見えている。

 その中から崩れた鉄柱を押しのけ、まるで虎が草むらから出てくるように、目をぎらつかせて姿を見せる男がいた。


 それはロランと幾度も巡り合い、その度に戦ってきた宿敵。


 カシムだった。


 彼は所々の焦げた白衣を着、いつも通り左目に片眼鏡を付けてこちらへと歩いてくる。


「よくもやってくれたな、少年よ。まさか、君がそんな優秀な遺伝子を持っているとは思わなかった。久々に会ったよ、ダイアウルフの獣人にね」


 始め、ロランは何のことを言っているのか分からなかったが、すぐにそれが自分のことだと気づく。


「ダイアウルフの獣人?――」


 ロランがそう問うと、彼は不気味にスプリットタンを見せて言った。


「フフフ。君、自分が誰なのか知らなかったのか。その獣化を見る限り、君はダイアウルフの獣人だろう。


 君の一族は、人類の進化の象徴だ。初めて成功した獣人種として、君の存在は遺伝子工学の歴史において特別な位置を占める。


 しかし、そんな偉大なる獣人第一号にも、一つの欠点があった。


 それは人格的に、人間の部分よりも圧倒的にオオカミの部分が多かったことだった。

 そして恐ろしい力を持つ人間が制御不能の狂獣(ワイルドアニマル)になるという欠点は、研究者たちに大きな恐怖を与えた。

 だからほとんどが殺処分されたわけだね。


――どうだい、心当たりあるだろう?

 研究所から逃げ出したダイアウルフの獣人は数人いたらしいが、まさかそれに生き残りがいるとはね」


 邪悪な笑みを見せるカシムとは裏腹に、ロランはカシムの言葉に動揺することはなかった。

 かつて彼は自分の本能に抗い、獣人としての力を恐れていた。

 しかし今は違う。彼は自分を完全に制御し、苦難を乗り越えた。


 カシムの言葉がどれほど挑発的であろうとも、彼の心は乱されることはない。


「生き残りだって?……それはもう過去の話」


 ロランは静かに答えた。目の前の男を鋭く見据えるその瞳には、揺るぎない覚悟が宿っている。


「僕は自分が誰なのかを理解した。そして獣でも、狂戦士でもない。僕はロランだ」


 カシムはわずかに眉をひそめ、その表情は意外な感情を含んでいた。

 計算ずくの挑発が効果を発揮しなかったことに苛立ちを感じたのだろう。

 しかし次の瞬間には再び冷たい笑みを浮かべた。


「君がそう言えるのは、自分の力がどれほど絶大か知らないからだ。君の存在は人類を超越するものだ。それを理解しているのか?」


「理解している」


 ロランの声には、自分の決意に対する確固たる自信があった。


「だからこそ、その力を振るう責任がある。そして僕は、その力を使ってお前を止める」


「フン。まぁいい。これを見てもそれが言えるか?」


 その瞬間、カシムの右腕が急に割れ、合金でできた腕の中から、上下二本の角ばった長い金属棒が姿を現した。


「ロラン君、僕がずっと研究していたものがこれ。銀は電気伝導率が金属最高と知って作ったんだ。獣人にも銀弾(シルバーブレット)は有効だからね。携行型究極殺傷兵器“ゴウト”――レールガンと言う奴だ」


 “ゴウト”全体は直線的なデザインで、金属の冷たい光沢が不気味に輝いている。まるで無機質な悪意が形となったかのようだった。


 銃身は太く、鋭く直線が強調されており、その表面には近未来的な装飾が施されている。

 パネルのような部分が幾何学的に並び、工業的な雰囲気を漂わせている。

 その中心には、二本の平行する金属のレールがまるで発射の準備を整えているかのように存在感を示していた。


「これが科学の力だ。人間として不完全で異常な私を完全へと導く存在、それが私にとって科学だった。これで私は狼を狩る!狩って、狩って、狩りつくす。吸血族の安泰が決定するまで!!ゼリクお父様の夢がかなうまで!!!!」


 彼は遂に、レールガンの上部に付いた取っ手を引いた。


 発射口部分に青白い光が微かに漏れ始め、エネルギーの脈動が目に見える。

 その光は炎の明るさとは異なる冷たい輝きで、兵器の恐るべき力を予感させた。

 動作が進むにつれ高い音が周囲に響き、銃身から放たれる光はさらに強まっていった。




 ロランは深く息を吸い込み、ゆっくりと目を閉じる。

 空気が震え、肌が瞬く間に変化し、鋭い爪が形を成した。

 その体はしなやかでありながら力強さを増し、瞳は紺色に輝く狼のそれへと変わっていっく。


「僕も完全な人間ではないが、それでも自分のことは好きだ。哀れだな、カシム。そんなお前を楽にさせてあげるよ。ダイアウルフの力で――」


 炎の光が背後で揺れる中、ロランの姿はより強大で凛々しくなり、彼の意志と力が一体となってその獣化を形作った。


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