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(β版)  作者: 自彊 やまず
第八章 最終決戦編
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第八十一話 必然的偶然➁

 一方その頃、ロータス、ライ率いる反乱軍は完全に包囲され、ステティアの中で孤軍奮闘の状態にあった。

 彼らは二人一組になって吸血兵を倒していたが、周囲にいた仲間達も随分と減って、残るは歴戦の猛者が十数人ほど。

 それでも二人は諦めることなく、仲間たちと連携し、力を合わせて最後の抵抗を続けていた。


「倒しても倒してもキリがねぇ!うじゃうじゃ湧きやがるぜ」


 ロータスが振り下ろした戦斧を吸血族兵が掴むと、その驚異的な力によって斧にひびが入る。


「ワシの体力もなかなかキツイわい。もうとっくに十人以上倒したろう?撤退するぞ!」


 ライはロータスの斧を掴んでいた吸血族へと的確に銃弾を撃ち込むと、ひらりとコートを翻し、後方を向く。


 しかし、後方にも敵兵。

 右にも、左にも、屋根の上にまで。


 ライは敵の数を見誤っていた。

 彼はこの敵兵力をカシム単独の攻撃と考えていたが、恐らくそうではなかった。

 確実にゼリク直属の軍が混ざっている。


 となれば、ゼリクの暗部が動き、クロノス教本部も教われていかもしれない。

 そう考えた時には、すでに手遅れだった。


 一対一ではまるで敵わないような吸血族達に四方を囲まれ、クロノス教本部に戻れるか、それも戻る場所があるかすらわからない中、彼は途方に暮れた。


 ここまでアダムを育て、全てをルバモシの為に尽くしてきた彼も、この戦いは反乱軍の大敗北として幕を引くしかないと悟ったのだった。


 残るはアダムら率いる義勇軍。――彼らに全てを託す。


 そう思っていたが、ロータスがふとライの方を向いて言った。


「何やってんすか!まだ戦いは始まったばかりですよ。確かに、俺達は他の奴らに比べて何も知らないし、何の特技もないですけど、それが諦める理由にはなりません。あと一人倒せば、それがゼリクかもしれないじゃないですかァ!負けないために勝つんじゃなくて、勝つまでやるんですよ!!!」


 この瞬間、ライはこのロータスと言う気骨のある若者に、大きな希望を感じ取った。

 またこの一言で、彼の老体を若い、草木が萌えるような暑苦しいエネルギーの中へと引き戻した。


「ハハ、すまんな。おいて頭もボケてきよったわい。戦いはこれからじゃったなァ!」


 そして彼ら二人が再び吸血族兵と向き合った時、遠くから馬のいななきが聞こえてきた。

 吸血兵は基本馬に乗らない。

 本気で走れば馬よりも速く走れるため、市街戦において馬を使用するのは下策であるからだ。


「もう味方はいないはず。こんな時に、敵の援軍…か…?」


 顔を歪めるロータス。

 では、誰が馬を率いて現れたのか。


 その答えは、後方を見た二人の目へとすぐに飛び込んできた。


 その情熱に燃える国民性を表すような、真っ赤なマントと金色に輝く甲冑を身に纏った異国の兵の姿がそこにはあった。


「マズい!奴らユマとも組んでいたのか!」


 ロータスはそう叫び、迫りくる騎馬兵へと斧を向けた。

 この佳境にライの額には汗が滲み、銃を握る手は震えている。


 流石にこの時はロータスも覚悟を決めた。


 ロータスが斧を振り上げ、迫ってきた先頭の男が乗る馬へと振り落とそうとしたとき、思いがけない言葉が彼らの耳に飛び込んできた。


「我らはユマ正規軍ガルシア管轄兵。で、僕がオスカル王子。よろしゅう。アロン君に聞いてここまで来たんやけど、彼はロータス君とやらに会いたくないから来ないそうだ。まぁとにかく、僕達は君らの、援軍っちゅうわけやな」


 彼はそう言うと、颯爽と吸血族兵の中へと飛び込んで行った。

 それに続き、彼の後ろを付いて行く数多の兵士達。


 本来指揮官は、さらに王子ともあれば戦の時、兵士達の先頭には立たないはずだが、彼は違った。

 当にその雄姿は、彼の王足りえる強さと、数々の経験の中で洗練されたそのカリスマ性を示していた。






――数日前。


 オスカルはゾシネを伝令兵とし、カシム軍とのやり取りを進めていた。


 内容は“ユマ―ゼリク軍によるステティア反乱兵挟撃作戦”


 本来であれば、今回ユマの総大将である第三王子フアリとカシムの参謀がやり取りをするのが正しいはずだが、オスカルはゾシネに、フアリの名を騙った手紙を持たせることで強引に作戦の発足へとこぎつけたのだった。


 ゾシネもこれが反乱兵を挟撃するための作戦と知ると協力的になり、自ら伝令兵を進んで出た。


 しかし、オスカルからすると、そんな作戦を決行するつもりは微塵もない。

 元々ゼリク軍に声を掛けられたユマ兵は、北から逃げてくる反乱分子を捕らえるために召集された二軍の兵士達だった。

 戦いへの士気もなく、兵役義務によって連れられて出てきた意欲の低い兵士達を前に、第三王子フアリは人類滅亡を待ち望んで、酒や肉に溺れるだけの毎日。


 それを利用したのが、未来への、人類への希望を胸に秘めたオスカルと言う男だった。


 全ては彼の掌の上。

 挟撃作戦を持ち掛け、反乱軍の位置を知り、自分たちの中隊を動かして彼らを助けに向かう。そしてカシム軍への急襲。

 その為に彼が考えた、急ごしらえで緻密な作戦だった。


 しかし、この作戦の完全な成功には二つの問題があった。

 一つは、オスカルに彼の大隊が付いて来るかどうかということ。

 もう一つは、カシム側が挟撃作戦を始める時、反乱兵の位置を早く特定しなければ、カシムの予定通り、オスカルの軍が北から流れて来るボロボロの反乱兵を捕らえるだけになってしまうこと。


 まず一つ目の関門は、意外にもあっさりと通過することになる。

 オスカルはステティア侵入前夜、クリス達が人類を救う為、その助太刀をユマ王に背いてまでやりきることができるか、彼の兵士たちに聞いた。

 すると素晴らしいことに、彼らは二つ返事でその頼みを飲み込んだ。


 ユマ国は王と総司教が対等にバランスを保って成り立っている国であり、さらにその下に王子たちと勅選司教たちの治める領地がある。

 今回オスカルが率いる軍は彼の領地から召集された平民達。

 平民と宗教との関係はやや薄いとは言え、正規に出ている予言を打ち壊すような行動に出た彼らの奥底には、オスカルを心の奥底から慕う熱い想いがあったからだった。


 他の領地よりも住みよく、評判の良いオスカル領で受けて来た恩を、今返すのだと彼らは言った。


 流石のオスカルも当惑し、「いや、軍を離れるなら今。咎めも恨みもしない」と言ったが、オスカルの下を離れる者は一人もいなかった。


 それを目にし、さらに戸惑うオスカルに対して、その凛とした瞳に涙を浮かべた婆やはこう言った。


「こら私達の気ぃ狂うたわけでも、オスカル坊ちゃまの為された奇跡でも何でもあらしまへん。これまでオスカル様の為さってきた善行が、今いっちゃん大事な場面であんさんを支えてるんどす」


 それを聞いたオスカルは涙し、兵士に強く誓った。

 これから何があろうともユマ国オスカル領は一致団結し、人類を救う英雄団の一員となるのだと。


 そして、もう一つの関門も易々と突破することができた。

 アロンと言う男の存在によって。


 彼は風変わりなゴーグルを頭に巻き、伸び縮みする不思議な棒を持って軍の前に現れた。

 その彼がロータスに向かって発した言葉は一言。


「今すぐに助けてくれ」


 だった。


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