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(β版)  作者: 自彊 やまず
第八章 最終決戦編
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第八十話 必然的偶然➀

 アダム率いる革命軍は、ステティアまでつい目前と言うところまで戻って来ていたが、少し先に見える煙や火の手が首都を覆っているのを見て、その行軍速度を速めることになった。


「クソ、かなり前から警察庁に兵のほとんどを向けていたことが漏れていた。いつだ!?そうじゃないと…そうしなければ、このカシム軍の速度は、俺らが警察庁を襲撃する前に軍を動かさないと辿り着かないはずの距離と時間。情報戦は俺らが一手、遅れていたんだ!」


 アダムはそう言って焦りつつも、すぐさま皆にこのことを伝達し鮮やかな指揮で革命軍を統率する。

 革命軍はクリスを中心に団結し、その力は吸血族兵団を凌ぐほどであった。


 さらに、そこまではクリスも軍と一緒に徒歩で動いていたが、ここからはアダムの命によりシトラスと共にバイクでステティアへと走ることとなる。

 シトラスがクリスの背に掴まり、二人は革命軍より一足先にステティアへと飛び出した。


 前だけを見据えたクリスの目は夕闇の中で赤く光り、その闘志を、怒りを仇敵にぶつけんと、静かに気持ちを高ぶらせていた。






 キリが繰り出す攻撃は全てカーミラの手に防がれ、逆にカーミラの放つ攻撃は全てキリのボディへと集められていた。


「カハッ!」


 キリの肋骨が折れ、激痛と共に新たな傷が身体に刻まれる。


「ウフフフ。その程度なの?その程度なのかしらァ!!!!!」


 現在のカーミラからすれば、クロノス最強格の戦力であるキリでさえも、その命を狩ることは容易かった。


「私はエクスとかいう奴と違って、吸血族の体に吸血族の組織を移植したバケモノなの。悪いけどそこら辺のカスじゃ相手になんないわ!」


 カーミラが打撃を繰り出すたびにその拳、脚に黒い筋繊維が巻き付く。

 禍々しく、光沢に包まれたその色はエクスの物よりもどす黒く、無類の硬さを誇る。


 キリが攻撃パターンを変え、カーミラの首を噛み付こうと首を伸ばしたが、その隙を突いたカーミラの一撃が喉に掠る。


「アァァァアア!!!」


 キリの喉から血が噴き出し、彼の速度が遅まると同時にカーミラの強烈な蹴りが彼の胴体に直撃した。


 キリは体を吹き飛ばされ、数十メートルも地面を抉って停止した。

 最初は気高く、高貴に見えたその毛ツヤも今は血に汚れ、その大きな体格も小さく見えてしまうほどに衰弱していた。


 それでも立ち上がるキリ。


 キリは心のどこかで分かっていた。

 これが自分の最後の戦いであり、命を賭して阻むべき相手が自分よりはるかに強い存在であることを。


 それでも、一分、一秒でも長く足止めしなければ、


「リリィ様との約束を破ってしまうことになる」


 キリはそう低く呟くと、歯を食いしばり、再びカーミラに向かって走り出した。


――本当はエマが羨ましかった。

 過程はどうあれリリィに愛され、最後まで彼女の愛を一身に受けていた。


 キリにとってエマの護衛は屈辱であり、リリィの護衛か、もしくは共に死が彼の望む道だった。

 しかし、それは出過ぎた真似であると、彼は彼自身を抑えた。


 たった最初に一度会っただけで魅了され、自身の母のように慕っていたリリィ。

 キリの彼女に対する愛情は歪なのかもしれない。

 ただ、彼を父の虐待から救い、瀕死の状態から助けた彼女のことを母と慕うことは、必然なのかもしれない。


 教祖ではなく、救世主ではなく、ただ自分に愛を与えてくれる存在として、彼はリリィを求めていた。

 最も、最後までその願いは叶わなかったが。

 リリィにとって教徒は同志であり、心情を共にするものであり、家族の様で家族ではなかったからだ。


 今はもう、彼女の期待に応えるしかない。

 彼女の娘を守ってほしいという願いに報いるしかない。


 リリィ亡き今、一方的な恩返ししかできなかった。


 でも、それでよかった。


「それが僕の使命だ!僕が目指す目標は唯一つ!リリィ様の願いが叶うことだ!!」


 キリは渾身の力を籠め、カーミラに向かって右腕を突き出した。

 突進の力も合いまり、途轍もないスピードで彼の鉤爪がカーミラへと吸い込まれていく。


「行っけぇぇえ!!!!!!」


 キリの突き出したオオカミの一裂きは弾丸の如き速さに達し、遂にカーミラの構える筋肉質な腕へと衝突した。


ガァァアアアアアアアアン!!!!!!


 金属音とも爆発音ともつかない轟音が辺りに響き渡り、それと同時に周囲へと砂埃が巻き上げられた。

 爆風で近くの瓦礫は吹き飛び、クレーターのように落ち窪んだ地面に佇むは二人。




「大したことないのね。少し身の危険を感じたけど、やっと装甲が貫かれたって感じね」


 カーミラはそう言い、自身の腕にまとわれていた黒い筋肉繊維が全て崩壊し、剥がれているのを確認した。

 一方のキリは右手の爪を全て粉砕し、腕は見るも無残に全体から血を拭き出している。


 カーミラは高笑いして言った。


「ホホホホ。貴方じゃ役不足だったってことね。でも、中々楽しかったわよ、私の餌食君」


 彼女は背筋が凍るような笑みを浮かべると、左腕を大きく振り上げ、彼の頭上へと振り下ろした。






「――!?」


 カーミラが振り下ろした腕はキリを一刀両断にすると思われたが、その腕はキリから外れ、地面に突き刺さっている。


 何者かが自分の攻撃を受け流した。

 彼女は瞬時にそう理解するとともに、その存在へと目を向けた。


 キリの前に立つのはフードを被り、腕に白いテーピングを巻いた小柄な少女らしき人物。


「こんなガキが、私の手刀を――」


 カーミラがそう言い、その少女へと拳を繰り出そうとしたとき、逆に自身のボディへと重いブローが入ることを認識した。

 さらに彼女が驚く間もなく、手刀をずらした存在は追撃を行う。


 腹、肩に一発ずつ、獣人の拳によって打ち出された鈍痛な一撃がカーミラを襲った。


「ハァ!?私がこんな雑魚に!!!」


 やっとカーミラが反撃を始めたが、少女はカーミラが動揺したその僅かな隙間でキリを担ぎ、一度彼女の攻撃範囲から離れた。


 カーミラはここに来て、初めて自身の精神が惑わされていることに気づく。

 キリも咄嗟の状況に置いて行けず、いつの間にかカーミラから離れ、自分の体を担いだ謎の戦士を不思議そうに見つめていた。


「キサマァ!名乗れ!何者だ!」


 彼女がそう叫ぶと、フードを被った存在はキリを横に下ろし、堂々とした態度で言った。


「名乗るほどのものではないっぴ。ただ、どうして教えてほしいなら教えてあげるっぴ。私の名前はハピ。ラオ最強の戦士っぴ」


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